肩書・代理人名義の冒用による偽造事件
肩書・代理人名義の冒用による偽造事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。
【刑事事件例】
福島県福島市に住むAさんは,同姓同名の弁護士がいることを利用して,弁護士V1名義の委任契約の報酬請求書を権限なく作成し,弁護士V1さんが顧問を務める株式会社V2(福島県福島市)に送付しました。
すると,後日,同請求書に記載したAさん名義の振込口座にお金が振り込まれていました。
これを受けて,Aさんは株式会社V2をカモにできると考え,今度は,株式会社V2の代理人を名乗って,「株式会社V2代理人A」と記載した売買代金請求書を株式会社V3に郵送しました。
(フィクションです。)
【偽造罪(有印私文書偽造罪)とは】
刑法159条1項(有印私文書偽造罪)
行使の目的で,…偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は,3月以上5年以下の懲役に処する。
有印私文書偽造罪(偽造罪)は,「行使の目的で」,「偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した」場合に成立する犯罪です。
【肩書を冒用した偽造事件について】
偽造罪(有印私文書偽造罪)の「偽造」とは,文書の名義を偽ることをいいます。
そのため,肩書を冒用した場合にも偽造罪(有印私文書偽造罪)の「偽造」があったといえるかは,文書の名義人が誰であるのか(その作成名義人と作成者との間に不一致が生じているか)という判断に左右されることになります。
この点,肩書を冒用した場合,直ちに作成名義人と作成者との間に不一致が生じているとはいえません。
しかし,肩書を付すことで作成名義人と作成者が別人格になる場合には,そこに作成名義人と作成者との間に不一致が生じており,偽造罪(私文書偽造罪)の「偽造」があったといえます。
刑事事件例のように,Aさんが報酬請求書の作成にあたり弁護士との肩書を付けた場合,その文書を見た人は,文書の名義人がAさんではなく,同姓同名の弁護士Aさんと考えるのが通常です。
そのため,作成名義人と作成者との間に不一致が生じており,偽造罪(私文書偽造罪)の「偽造」があったといえると考えられます。
よって,Aさんには偽造罪(有印私文書偽造罪)が成立すると考えられます。
【偽造私文書行使罪・詐欺罪が成立します】
刑法161条1項(偽造私文書行使罪)
前2条の文書…を行使した者は,その文書…を偽造し…た者と同一の刑に処する。
刑法246条1項(詐欺罪)
人を欺いて財物を交付させた者は,10年以下の懲役に付する。
刑事事件例では,Aさんは偽造(有印私文書偽造)行為により作成した文書を行使して株式会社V2に金銭を振り込ませています。
よって,Aさんには,偽造私文書行使罪と詐欺罪が成立すると考えられます。
【代理人名義を冒用した偽造事件について】
代理人名義を冒用した場合,偽造罪(有印私文書偽造罪)の「偽造」があったといえるかは,同じように,文書の名義人が誰であるのか(その作成名義人と作成者との間に不一致が生じているか)という判断に左右されることになります。
この点,代理人名義を冒用した場合,代理の効果は本人に帰属するため,文書を見た人は,この文書の名義人は本人であると考えるのが通常です。
そして,刑事事件例のように,Aさんが売買契約書の作成にあたり代理人であると偽った場合,その文書を見た人は,文書の名義人がAさんではなく,株式会社Vと認識すると考えられます。
そのため,作成名義人と作成者との間に不一致が生じており,偽造罪(有印私文書偽造罪)の「偽造」があったといえると考えられます。
よって,Aさんには偽造罪(有印私文書偽造罪)が成立すると考えられます(なお,肩書を冒用した場合に成立する偽造罪〈有印私文書偽造罪〉とは別に成立します)。
このように,肩書・代理人名義を冒用した場合,偽造罪(有印私文書偽造罪)や偽造私文書行使罪,詐欺罪など複数の犯罪が成立する可能性があり,偽造事件の被疑者・被告人の方には起こした刑事事件の数に相当する分,重い刑罰が科されてしまう可能性もあります。
偽造事件を起こした場合には,刑事事件に強い刑事弁護士を選任し,重い刑罰を回避するための刑事弁護活動を受けることが大切です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は,刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
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