執行猶予中にストーカーで逮捕①

執行猶予中にストーカーで逮捕①

女性への傷害罪で執行猶予中に、同じ女性にストーカーをしたとして逮捕された事件がありました。

執行猶予中にストーカー行為,容疑の男逮捕 埼玉県警
産経新聞

この事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説いたします。

~事件の概要~

ニュース記事がリンク切れの可能性もあるので、最初に事件の概要を確認しておきます。

男性が知人女性の顔を複数回こぶしで殴り、車で女性に衝突するなど暴行を加えたとして殺人未遂罪の容疑で逮捕

傷害罪で起訴

さいたま地裁が懲役2年6か月、保護観察付き執行猶予4年の判決

執行猶予期間中に同じ女性の実家前を車で複数回行き来するなどのつきまとい行為で逮捕

今回の事件はこのような流れをたどりました。
順番に、気になる点を深堀していきます。

~殺人未遂罪が傷害罪に~

この男性は最初、殺人未遂の容疑で逮捕されています。
しかしその後、傷害罪で刑事裁判にかけられています。
これはなぜでしょうか。

一般的に、被害者にケガを負わせた事件では傷害罪が成立することが多いです。
同じくケガを負わせた事件であっても、より重い殺人未遂罪が成立するためには、

①被害者が死亡する危険性が認められること
②加害者に殺人の故意があること

が必要です。

①については、一般的にこぶしで数回殴った程度で被害者が死亡する危険性は低いでしょう。
しかし今回の事件のように、自動車を衝突させたとなれば、状況によっては死亡してもおかしくないので、①が認められる可能性が十分考えられます。

次に②については、被害者を殺そうと思っていた、あるいは死亡するかもしれないがそれでもかまわないと思っていれば、故意があるとされます。
そして繰り返しになりますが、自動車を衝突させることは被害者が死亡することも十分考えられる行為です。
だとすると、このような危険な行為をするということは被害者を殺すつもりがあったのではないか、少なくとも死ぬかもしれないとわかった上で死んでもかまわないと思って衝突させたのではないかと判断されてもおかしくないわけです。

それでも傷害罪での起訴・有罪判決となった理由はわかりません。
1つの予想されるパターンとしては、車と被害者の位置関係や被害者にぶつかった時のスピードなどから、被害者が死亡する可能性は低くて脅しの意味合いが強かったのではないか、すなわち①②が満たされるとは言い切れない、といった判断を検察官が行い、傷害罪で起訴したのかもしれません。

~なぜ執行猶予判決に?~

その後、さいたま地裁は執行猶予判決を下しました。
再び女性の実家周辺をうろつくような人がなぜ執行猶予になったのか、疑問に思われる方もいるかもしれません。
正確な事情は報道からはわかりませんが、いくつか考えられる理由をあげてみます。

まず、犯罪をしたと疑われている人をどの罪で裁判にかけるかの判断は検察官が行うことになっています。
裁判所は原則として、検察官が起訴した罪名で裁判を行うことしかできません。
したがって検察官が、前述のように殺人未遂罪が成立するとは言い切れないなどと判断して傷害罪で起訴した以上は、裁判所としては傷害罪で裁判を進めるしかないわけです。

そうなると、傷害罪は殺人罪よりも一般的に刑罰が軽くなりますから、殺人罪で起訴された場合に比べれば、執行猶予になる可能性も上がるわけです。

とはいえ今回の事件の男性は、判決が出る前の身柄拘束期間中、ノートに殺害をほのめかすような記載をしていたようです。
このような悪質といえる事情があったにも関わらず執行猶予となったのは、たとえば前科がない、裁判ではしっかりとした反省態度を示していた、被害者と鉢合わせするような事態は考えにくい状況にあった、男性の家族の監督が見込める状況にあったなどの事情があったのかもしれません。

しかし残念ながらその後、女性の実家周辺をうろついたとしてストーカー規制法違反で逮捕されたわけです。
結果だけ見れば、検察官や裁判所の判断が間違っていたとも言えますが、検察官や裁判官も人間ですから、なかなか正確な判断をすることは難しいということなのかもしれません。

〈続きはこちら〉
執行猶予中にストーカー②

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