殺人を思いとどまる
宮城県大河原町に住むAさんは、認知症を抱えた母親を自宅で長年介護しています。
最近は認知症の症状も進み、コミュニケーションも難しく、汚物の処理なども含め、介護の負担は壮絶なものとなっていきました。
あるとき限界に達したAさん。
母親を殺してしまおうと思い、首を絞めてしまいました。
我に返ったAさんは、慌てて救急車を呼ぶなどの措置を取り、母親は一命をとりとめました。
母親の首に絞めたられた形跡が残っており、Aさんも犯行を認めたことから、Aさんは殺人未遂の容疑で大河原警察署の警察官により逮捕されました。
(フィクションです)
~成立する罪~
Aさんの行為には殺人未遂罪が成立します。
刑法
第199条
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
第203条
第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。
~刑が軽くなる?~
ある罪を犯した人に対し、どれくらいの期間や金額などの範囲で刑罰を受けさせることができるのかが、刑法などの法律には書かれています。
これを法定刑といいます。
殺人罪の場合は上記199条にあるように、死刑または無期懲役、もしくは5年以上の懲役となります。
しかし、ある事情が存在するときは、一般的に刑罰を軽くすべき、あるいは重くすべきといえる場合があります。
この場合には、法定刑から軽くした、あるいは重くした範囲で刑罰が決められることがあります。
これは処断刑と呼ばれ、裁判官は処断刑の範囲で、被告人の刑罰の重さを決めることになります。
以下、Aさんに関係のある範囲で、具体例を説明いたします。
~未遂に終わったこと~
今回、Aさんの母親は一命をとりとめており、Aさんは殺人罪ではなく殺人未遂罪に問われることになります。
未遂で済むと、法定刑よりも処断刑を軽くすることができます。
刑法第43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
この条文の1文目をみると、刑を軽くすることが出来る旨が書かれています。
未遂に終われば被害が少なくなったり、あるいは未遂に終わるような弱い犯行方法であったから悪質性が低いという場合があることから、処断刑を軽くしうるというものです。
ただし、偶然にも未遂に終わっただけで、結果が生じていてもおかしくなかったという場合もあります。
たとえば殺人罪でいえば、被害者が死亡しなかったのは偶然にすぎず、犯行方法からすると死亡してもおかしくなかったといえるような場合です。
この場合に刑を軽くすべきでないといえる場合もあることから、未遂の場合には必ず処断刑が軽くなるわけではなく、裁判官の判断で軽くすることも出来るにとどまります。
~自ら犯行を止め、救命措置をしたこと~
Aさんは途中で我に返り、救急車を呼ぶなどしています。
この場合、前述の刑法43条ただし書きの「自己の意思により犯罪を中止した」ものとして、処断刑が軽くなる可能性があります。
中止犯、あるいは中止未遂と呼ばれます。
「自己の意思により犯罪を中止した」といえるか否かの判断は難しいですが、簡単に言うと、自発的に犯行を止めたのか人に見つかったなどの外部的理由により止めたのか、死亡などの結果発生を防ぐ努力をしたか否か、といった点を考慮して判断されます。
中止犯となれば、必ず処断刑が軽くなります。
たまたま最悪の結果を免れた場合よりは悪質性が低いですし、刑罰を軽くしておくことによって犯行を思いとどまらせようという狙いもあると言われています。
~酌量減軽~
事件の特殊性から、刑を軽くすべきという場合も、酌量減軽により処断刑が軽くなる可能性があります。
第66条 犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。
介護疲れからの殺人の場合、介護の壮絶さを考慮して、酌量減軽がされる可能性があります。
~どれくらい減刑される?~
未遂や中止犯、酌量減軽が認められると、どれくらい刑が軽くなるのかは刑法68条から72条に記載があります。
第68条
法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。
一 死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は十年以上の懲役若しくは禁錮とする。
二 無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、七年以上の有期の懲役又は禁錮とする。
三 有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。
(以下略)
殺人の場合に即して簡単に説明すると、まずは死刑の可能性がなくなります。
また、本来有期懲役は20年以下なので(12条1項参照)、殺人罪で有期懲役になると5年以上20年以下の懲役となりますが、未遂や中止犯となると半分の2年半以上10年以下となります。
これに酌量減軽が加われば、さらに半分の1年3カ月以上5年以下となります。
なお、執行猶予(25条以下参照)は3年以下の懲役の言渡しを受けた場合にのみ付けることが出来るます。
殺人罪のように法定刑が5年以上の罪の場合には、減刑がなされてはじめて執行猶予にしうるので、この意味でも大きなポイントになります。
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