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娘への性的暴行で逆転有罪判決

2020-03-18

娘への性的暴行で逆転有罪判決

娘への準強制性交等罪に問われた父親の控訴審判決で、一審の無罪判決から一転、懲役10年の有罪判決が出されました。

娘への性的暴行罪 父親に有罪の逆転判決 名古屋高裁
NHK NEWS WEB
娘への性的虐待に逆転有罪、地裁と高裁で分かれた判断3つのポイント
Yahoo!ニュース(ハフポスト提供/執筆・中村かさねさん)

この判決について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

~準強制性交等罪とは~

今回の裁判で父親が問われていたのは、準強制性交等罪という犯罪です。
そもそもどのような犯罪なのでしょうか。

前提として刑法には、いわゆるレイプをした場合に成立する強制性交等罪という犯罪が定められています。

刑法177条
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

この犯罪は、被害者を暴行または脅迫して性交等をした場合に成立します。

※ 強制性交「等」となっているのは、性器ではなく口や肛門に性器を挿入した場合も成立する犯罪だからです。また、被害者が13歳未満の場合には、暴行・脅迫がなくても成立します。

この犯罪とは別に、刑法には準強制性交等罪という犯罪も定められています。

第178条2項
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

この犯罪は、暴行・脅迫をしなくても、被害者が心神喪失(気を失っている等)や抗拒不能(抵抗ができない等)の状態にあることを利用して、あるいはこれらの状態にさせて性交等をした場合に成立します。
飲み物に睡眠薬を入れて眠らせ、レイプするような方法が典型例です。

※ 条文中の「前条の例による」というのは、177条の強制性交等罪と同じく、5年以上の有期懲役(余罪がなければ上限は20年)ということです。

今回の事件では、父親が暴行や脅迫をしたというよりも、父親の立場を利用して性交をしたことから、準強制性交等罪が成立するのかが問題となったのです。

~判決が分かれた理由は?~

今回の裁判では、被害者が抗拒不能な状態にあったのかが争いになりました。
1審判決は抗拒不能だったとは言い切れず、準強制性交等罪の成立条件を満たさないので無罪としました。
2審判決は、抗拒不能だったとして有罪としました。
現状、どのような状態であれば抗拒不能だったといえるのかという基準が明確に定まっていないことから、裁判所の判断が分かれてしまったのです。

では、それぞれの裁判所はどのような理由によりこのような判断をしたのでしょうか。

無罪とした1審の裁判所は、抗拒不能と言うためには、「人格を完全に支配され服従せざるをえない状態」になっている必要があると判断しているようです。
これはつまり、子供は親に対し精神的・経済的に依存して立場の強弱があることを背景として、性交を拒むことが不可能なほど親が子供の言いなりになっていたかどうか、というような基準を立てたと言えるでしょう。
該当するケースが減りやすい厳しい基準と言えます。

そして今回の事件では、過去に実際に抵抗して拒んだことがあったこと、弟らに相談して性的暴行を受けないような対策をしていたこと、アルバイト収入があり家を出て1人で暮らすことも検討して経済的な依存度も強くないことなどから、「人格を完全に支配され服従せざるをえない状態」とまでは言えないとして、無罪にしたのです。

一方、有罪とした2審の裁判所は、1審のような厳しい基準で考えることは間違っている旨を述べ、「抵抗が著しく困難であったか」という1審よりは緩やかな基準を立てています。
そして、被害者が中学2年生の頃から意に反した性行為をくり返し受けてきたこと、抵抗した場合には暴力を受けたことがあったこと、弟と同じ部屋で寝ていた時は性行為はされなかったが弟が別の部屋で寝るようになるとかえって性行為の頻度が増えて抵抗の意思・意欲が奪われたこと、父親が逮捕されれば弟が生活に困ると考えたことなどから、抵抗できない状態だったと優に認められるとして有罪としました。

また今回の事件では、被害者が両親の反対を押し切って専門学校に行くことにしたり、その入学金や学費のうち、被害者が負担する分を減らして父親が負担する分を増やさせるなど、日常生活では父親に対しても自由に行動できる部分がありました。
この点も1審は抗拒不能ではないといえる事情の1つとしましたが、2審は「日常生活で自由に行動できることと性交時の抵抗が困難になることとは両立し得るものであり、矛盾するものではない」と判断しました。

一般に性犯罪においては、外部の人間が一見すると抵抗できるのではないかと思えるような場合でも、実際には抵抗が極めて難しいケースがあります。
今回の2審判決は、このことに配慮した判決と言えます。

~今後の展開~

父親は上告したので、まだ判決は確定していません。
最高裁判所がどのような判断をするかは注目です。

1審の無罪判決は、性暴力根絶を訴えるフラワーデモが広がるきっかけにもなりました。
(準)強制性交等罪の成立条件から暴行・脅迫・心神喪失・抗拒不能という条件を消し、相手の同意がない性交であれば犯罪が成立するようにすべきという意見もあります。
海外ではすでにそうなっている国もあり、今後日本でも刑法が変わる可能性があります。

性犯罪の被害者はもちろん、加害者も減らしていくためにどのような制度がいいのか、真剣に考えるべき時と言えるでしょう。

風俗の禁止行為で成立する犯罪

2020-03-17

風俗の禁止行為で成立する犯罪

風俗で禁止されている行為をした場合にどんな犯罪に問われるおそれがあるのか、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

~強制性交等罪~

風俗店はわいせつ行為をすることが許されている店なので、ルールの範囲内でわいせつ行為をしただけなら犯罪が成立することはありません。

しかし、ルール違反をすると犯罪が成立してしまうことがあります。
典型的なパターンとしては、禁止されている本番行為を無理やりしてしまい、強制性交等罪に問われることがあります。

刑法第177条
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

ちなみに、わざとではなく不意に挿入する形になった場合には強制性交等罪は成立しません。
しかし、わざとではないことを信じてもらうのは難しいこともあります。

~強制わいせつ罪~

本番行為までしなくても、たとえば時間を超えて無理やり触り続けたり、触ることを禁止されている部位を触ったりすると、強制わいせつ罪に問われる可能性もあります。

第176条
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

ルールの範囲内であれば成立しませんが、ルールを破ってしまうと強制わいせつ罪が成立する可能性があるわけです。

~暴行罪・傷害罪~

風俗嬢を殴ったり蹴ったりした場合、ケガをすれば傷害罪、ケガまではしなかった場合でも暴行罪が成立する可能性があります。

第204条
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

~強制性交等致傷罪・強制わいせつ致傷罪~

無理やり本番行為をしたり、ルール違反のわいせつ行為をした上、ケガをさせてしまった場合には、強制性交等致傷罪強制わいせつ致傷罪が成立する可能性があります。

強制性交等致死傷罪は無期または6年以上の懲役、強制わいせつ致死傷罪は無期または3年以上の懲役と定められています。

これらは死亡させた場合も含んだ規定ですが、とても重い刑罰が定められています。
抵抗する相手に無理やりこのような行為に及んだ場合には、相手がケガをしてしまう可能性も十分考えられ、重い刑罰を受けることにつながります。

~盗撮で迷惑行為防止条例違反~

部屋に隠しカメラを設置し、風俗嬢とのプレイを盗撮したような場合には、迷惑行為防止条例違反になる可能性があります。

宮城県・迷惑行為防止条例
第3条の2第3項
何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所で当該状態にある人を撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。

罰則は、常習者が6か月以下の懲役または50万円以下の罰金、常習者の場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金となっています。

~ストーカー規制法違反・強要罪~

風俗嬢に対しストーカーをして、ストーカー規制法違反に問われるケースもあります。

ストーカー行為等の規制等に関する法律
第18条
ストーカー行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

他にも、脅し文句を言ってプライベートで会うことや画像の送信を要求した場合などには、強要罪強要未遂罪などが成立する可能性もあります。

刑法第223条1項
生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

プライベートで女の子と関わろうとした場合、その方法によっては犯罪になってしまう可能性があるわけです。

~弁護士にご相談を~

このようなトラブルを起こしてしまった場合、処分や判決を軽くするためには、お店や女性側に謝罪・賠償して示談を締結するのが重要となってきます。
しかし、風俗店相手にどうやって示談交渉すればよいか不安だと思います。

また、被害届が出されれば警察に逮捕されたり、取調べを受ける可能性もあります。
そうなるといつ釈放されるのか、取調べでは何と答えたらよいのかなど、わからない点が多いと思います。

あなたやご家族が何らかの犯罪をしてお困りの場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は、交通事件も含めた刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
逮捕されている事件では、弁護士が警察署での面会(接見)を行う初回接見サービスを、逮捕されていない事件やすでに釈放された事件では無料法律相談のご利用をお待ちしております。

警察官が取調べ中に暴行

2020-03-15

警察官が取調べ中に暴行

警察官が少年を取調べ中に暴行し、有罪判決を受けた事件がありました。

捜査中に少年殴る暴行 和歌山県警の元巡査に執行猶予付き有罪判決
Yahoo!ニュース(ABCテレビ提供)

特別公務員暴行陵虐罪という罪に問われたこの事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

~特別公務員暴行陵虐罪とは~

この事件は、器物損壊事件で中学1年生の少年を取り調べていた警察官が、少年を何度も殴ったというものです。
幸い少年にケガはありませんでした。
少年は事件現場にいたものの、器物損壊行為には加わっていなかったようです。

裁判所は暴行をした元警察官に対し、懲役1年6ヵ月・執行猶予3年を言い渡しました。

今回問題となった特別公務員暴行陵虐罪という犯罪は、あまり聞きなじみがないと思います。
条文を見てみましょう。

刑法195条1項
裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、七年以下の懲役又は禁錮に処する。

この犯罪は、条文記載の仕事をしている人が、犯罪をしたと疑われている被疑者や刑事裁判にかけられている被告人などに対し、暴行陵辱(わいせつ行為などの恥ずかしめる行為)、加虐(暴行以外の方法で肉体的に苦痛を与える行為)をした場合に成立することになります。

定められた刑罰(法定刑)は7年以下の懲役または禁錮です。
通常の暴行罪2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料なので、だいぶ重くなっています。

警察官などによる暴行等は、近年は少なくなったとはいえ、たびたび行われていたことであり、ウソの自白の強要など冤罪事件につながる可能性もあるので、重く罰することとされています。

※ 禁錮は、刑務作業をするかは自由であること以外は懲役と同じ刑罰です。
 拘留は、1日以上30日未満の期間、刑事施設に収容される刑罰です。
 罰金は1万円以上を、科料は1000円以上1万円未満を徴収される刑罰です。

なお、暴行によりケガをさせた場合は15年以下の懲役または禁錮となります。
通常の傷害罪と比べると、罰金刑で済む可能性がなくなるという違いがあります。

~判決理由は?~

報道によると、和歌山地裁は判決理由として、「中学1年生に対する事情聴取の方法としては不適切極まりなく、厳しく非難されなければならない」と指摘しています。
「中学1年生に対する事情聴取の方法としては不適切」という部分に対しては、相手が大人であっても不適切では?と突っ込みたくなりますが、いずれにしろ、許されないことなのだという指摘はなされているといえます。

一方、示談が成立していることなどが、被告人にとって有利な事情をしてあげられています。
たしかに、被害者に謝罪・賠償して示談が成立していれば、していない場合よりも悪質さは減るので、判決が軽くなる事情となりえます。

特別公務員暴行陵虐罪に限らず、被害者のいる犯罪で少しでも軽い結果を目指すためには、示談を結ぶことが重要となってきます。

~弁護士にご相談ください~

しかし示談を結ぼうにも、何と言ってお願いしたらよいのか、示談金はいくらにしたらよいのか、示談書の文言はどうしたらよいのかなど、わからないことが多いと思います。
あなたやご家族が犯罪をしてお困りの際は、ぜひ弁護士にご相談いただければと思います。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は、交通事件も含めた刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
逮捕されている事件では、弁護士が警察署での面会(接見)を行う初回接見サービスを、逮捕されていない事件やすでに釈放された事件では無料法律相談のご利用をお待ちしております。

信号無視の自転車をひいて裁判に【無罪】

2020-03-14

信号無視の自転車をひいて裁判に【無罪】

信号無視の自転車をひいて死亡させ、裁判になった事件がありました。

女子高生死亡事故で男性に無罪 徳島地裁「過失なし」
Yahoo!ニュース(共同通信提供)

無罪判決が出されたということなので、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

~過失運転致死罪に問われた~

この裁判で自動車の運転手は、過失運転致死罪に問われていました。
条文を見てみましょう。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
第5条
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

もし有罪となれば、条文にある通り、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金という刑罰が科される可能性があります。

今回は、自転車の側が信号無視をしたわけなので、このような重い刑罰を受ける可能性が出てくるというのは腑に落ちない気もします。
しかし、相手が交通違反をしたのが事故の主たる原因だったとしても、こちらにも非があれば(=過失があれば)、こちらも罪の問われる可能性があるわけです。

~求刑は罰金30万円だった~

とはいえ、今回の事故は自動車の運転手の側に過失が認められるか微妙なところだったようです。

刑事裁判において検察官は、裁判にかけられた被告人にどれくらいの刑罰を受けさせるべきかという意見を述べますが(求刑)、この求刑は罰金30万円でした。
今回は有罪となれば最高で懲役7年を科すことも出来る犯罪ですが、求刑自体がだいぶ軽いものだったといえます。

仮に自動車の運転手にも過失があったとしても、悪質さは低いというのが検察官と弁護人の一致した意見だったと思われます。

~過失が認められず無罪に~

そして今回の裁判、自動車の運転手の過失が認められないとして無罪となりました。

判決理由では、

①自転車が赤に従って横断を差し控えるものと期待、信頼するのが通常
②前照灯の光や反射板を踏まえても、自転車の存在を予見できたか疑いが残る

といった理由が述べられたそうです。

①は、刑事裁判で時々用いられる、信頼の原則と呼ばれる考え方を示しています。
たしかに相手が交通違反をするかもしれないと注意深く運転していれば避けられたかもしれないが、このような注意を払うのにも限界があるので、相手が交通ルールを守ることを前提として信頼して運転していれば、事故が起こっても責任を負わなくて済むこともあるという考え方です(絶対に責任を負わないということではありません)。

この①は交通事故全般に当てはまる一般論に近いことを言っていますが、②は今回の事故を具体的に検討した結果を示しています。

すなわち、今回たしかに自転車が信号無視をしていたものの、自転車のライトや反射板が光っており、自転車の存在に気が付くことができたのだから、自動車の側で事故を避けることができたのではないかといった主張が検察官からなされていたのだと思われます。
しかし裁判所としては、自転車の存在に気付いて事故を避けられたとまでは言い切れないという判断をしたということになります。

~お困りの方は弁護士にご相談を~

今回の運転手は無罪となりましたが、裁判や取調べ対応などは大変だったでしょうし、仕事などにも影響が出たかもしれません。
また、人をひいて死亡に至ったということ自体が大きな心理的負担となったことでしょう。
さらに、主たる事故原因が相手にある場合でも、こちらにも非がある(過失がある)場合には有罪となってしまう可能性もあります。

普段、犯罪と縁がない人であっても犯罪者となってしまう可能性があるのが交通事故です。
運転は慎重に行うことが重要です。

もし、あなたやご家族が交通事故を起こして逮捕されたり、警察の取調べを受けるといった場合には、いつ釈放されるのか、被害者との示談はどうすればいいのか、どのくらいの刑罰を受けることになるのか、取調べでは何と答えたらよいのか、今後の刑事手続きの流れなど、わからない点が多いと思いますので、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件も含めた刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
逮捕されている事件では、弁護士が警察署での面会(接見)を行う初回接見サービスを、逮捕されていない事件やすでに釈放された事件では無料法律相談のご利用をお待ちしております。

盗撮動画をネットに公開して逮捕

2020-03-13

盗撮動画をネットに公開して逮捕

出会い系サイトで知り合った女性との性行為を盗撮し、インターネットで販売して逮捕された事件がありました。

「あなた似の動画がネットに…」知人から知らされ被害発覚 性行為盗撮し公開の男逮捕
神戸新聞

この事件で神戸地方裁判所は3月9日、懲役3年、執行猶予5年、罰金100万円の判決を出しました。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~わいせつ電磁的記録陳列罪~

この事件の被告は、わいせつ電磁的記録陳列罪リベンジポルノ防止法違反に問われました。
まずは、わいせつ電磁的記録頒布罪の条文を見てみます

刑法175条1項
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

被告の行為は、2文目に該当したと判断されました。
つまり、盗撮動画は「わいせつな電磁的記録」に、インターネットへの公開は「電気通信の送信により…頒布した」に該当したわけです。

罰則は①2年以下の懲役、②250万円以下の罰金、③科料、④懲役と罰金の両方、のいずれかになります。
なお、③科料は罰金とほぼ同じ刑罰ですが、金額が1000円以上1万円未満のものを言います。
罰金は最低でも1万円以上です。

今回の判決は懲役3年、執行猶予5年、罰金100万円ということでした。
懲役には執行猶予が付いたものの、懲役罰金の両方が言い渡されているので、④のパターンだったわけです。
被害を考えると罰金では軽すぎるけど、こういった営利目的もある犯罪に対しては、罰金にもできた方が抑止効果があるということで、両方を科すことができるようにされています。

~リベンジポルノ防止法違反~

リベンジポルノ防止法は、主に交際していた相手の裸の画像などをインターネットに公開することを防ぐ目的で制定された法律です。
条文を見てみましょう。

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ防止法)
第3条1項
第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

いかにも法律らしく、難しい言葉が使われていますが、「私事性的画像記録」とは簡単に言うと、第三者に公開することが予定されていない性的な画像や動画をいいます。
相手の裸や性行為などの画像・動画が該当します。
撮影することについて相手の同意がない場合はもちろん、同意があっても第三者に公開することが予定されていないのであれば該当することになります。

~児童ポルノ禁止法違反~

仮に相手が18歳未満であり、18歳未満であることを知りながら撮影や公開をすると、児童ポルノ禁止法にも違反してまいます。

第7条2項
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線(筆者注・インターネット)を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態(筆者注・簡単に言うとひわいな格好)を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録(筆者注・動画・画像データ)その他の記録を提供した者も、同様とする。
第5項
前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

~迷惑行為防止条例違反~

また、相手の許可を得ないで盗撮した場合には、各都道府県が制定する迷惑行為防止条例に違反する可能性があります。
宮城県の条例を見てみましょう。

第3条の2第3項
何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所で当該状態にある人を撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。

罰則は、
・撮影に成功した場合
 →盗撮常習者は1年以下の懲役または100万円以下の罰金
 →盗撮常習者は2年以下の懲役または100万円以下の罰金
・盗撮に失敗した場合(未遂で終わった場合)
 →盗撮常習者は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
 →盗撮常習者は1年以下の懲役または100万円以下の罰金
となっています。

~弁護士にご相談を~

このように、盗撮やその画像・動画の公開・販売をすると、様々な犯罪が成立する可能性があります。

もしこのようなことをやってしまった場合には、すみやかに被害者に謝罪・賠償して示談を締結することが、被害者の損害回復と、加害者の早期釈放軽い処分・判決を目指す上で重要です。

あなたやご家族が逮捕されたり、警察の取調べを受けてお困りの方は、お早めに弁護士にご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
逮捕されている事件では、弁護士が警察署での面会(接見)を行う初回接見サービスを、逮捕されていない事件やすでに釈放された事件では無料法律相談のご利用をお待ちしております。

自衛官が風呂を盗撮させる

2020-03-11

自衛官が風呂を盗撮させる

交際相手の女性自衛官に女性風呂を盗撮させたとして、男性自衛官が有罪判決を受け、懲戒免職になった事件がありました。

交際相手に女性風呂を盗撮させた自衛官を懲戒免職処分 航空自衛隊岐阜
Yahoo!ニュース(CBCテレビ提供)

このような事件を起こした場合の刑事責任について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

~迷惑行為防止条例違反に~

今回のような盗撮事件を起こした場合、盗撮した女性とさせた男性は、ともに各都道府県が定める迷惑行為防止条例違反になる可能性があります。

宮城県の条例を見てみましょう。

宮城県・迷惑行為防止条例
第3条の2第3項
何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所で当該状態にある人を撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。

罰則は、盗撮の常習者の場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
盗撮の前科があるなど常習者として裁かれる場合は、2年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。

なお都道府県によっては、上記のような浴場での盗撮の処罰規定を置いていないところもあります。
その場合は軽犯罪法や建造物侵入罪に問われる可能性があるでしょう。

~本人は盗撮していないが~

今回の事件の男性自衛官は盗撮自体はしておらず、他人にさせています。
このように自分自身で犯行をしていない人を処罰する方法としては、①共同正犯として罰する、②教唆犯として罰する、③幇助犯として罰する、の3パターンがあります。

①共同正犯(刑法60条)は、他の人と共謀(相談)して犯罪を行ったが、犯行自体は他のメンバーが行ったような場合に、犯行自体を行っていない人も同罪として一緒に処罰するというものです。

②教唆犯(刑法61条)は、他人をそそのかして犯罪をする決意をさせ、実際に犯行させた場合に、そそのかした人を処罰するというものです。

③幇助犯(刑法62条)は、すでに犯罪を決意している人の犯行を手助けした人を処罰するものです。

①②③の区別が難しい事件もありますが、①は自分の犯罪として積極的に関与している場合、②は他人に犯罪をすすめたものの、あくまでも他人が行う犯罪に関与したにとどまる場合、③は犯罪をすすめてすらおらず、他人が行う犯罪に関与したにとどまる場合、という言い方もできます。

一般的には、①共同正犯が一番重く、③幇助犯が一番軽く処罰されます。
特に①共同正犯の場合、実際に受ける刑罰は、実行者よりも主犯格・黒幕である人が重くなるということもありえます。

今回の事件で男性の自衛隊員がどれで処罰されたのか、報道からは明確にはわかりません。
たとえば、自分が見る目的があったり、盗撮データを販売して儲けようといった意図があった場合には、盗撮させることによって自分が利益を受けるわけですから、女性自衛官という他人の犯罪に関与したにとどまらず、自分の犯罪として関与したといえるので、①共同正犯になる可能性が高いでしょう。

~お困りの際は弁護士に相談を~

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
刑事事件・少年事件の経験豊富な弁護士が、早期釈放軽い処分・判決、そしてご本人の更生を目指して弁護活動をしてまいります。

逮捕されている事件では、弁護士が警察署での面会(接見)を行う初回接見サービスを、逮捕されていない事件やすでに釈放された事件では無料法律相談のご利用をお待ちしております。

宮城県色麻町の少年が放火

2020-03-10

宮城県色麻町の少年が放火

色麻町で15歳の少年が自宅を放火し、家族2人が死亡した事件がありました。

少年「こんなことになるとは…」色麻町住宅全焼2人死亡 1階の少年の部屋が火元か〈宮城〉
Yahoo!ニュース(仙台放送提供)

この事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

~現住建造物等放火罪に~

この事件を知った皆さんは、少年が自宅へ放火した動機などが気になるところかと思います。
しかし、現時点では報道を見てもわからない状況なので、今回は法律的な解説をしていくことにします。

家族も住む自宅に放火して全焼させた少年には、現住建造物等放火罪が成立します。

刑法第108条
放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

木造建築の多い我が国では、放火は人が死亡する危険も高い悪質な犯罪であるということで、殺人罪と同じ重い刑罰が定められています。

犯人が20歳以上の場合にはこの範囲内で刑罰を受けることになります。
しかし今回放火したのは15歳の少年
20歳未満の少年が犯罪をした場合には少年法が適用されるので、処分の内容や手続きが大きく異なってきます。

~少年事件の手続は?~

成人事件でも少年事件でも、犯罪をしたとして逮捕されると、警察が取調べをした後、身柄が検察庁に送られます。
リンク先の3月9日時点のニュースでも、少年は検察庁に送られた段階のようです。

この後、検察官の取調べを受けた後、成人事件の場合には地方裁判所において刑事裁判を受けるのが基本的な流れになります。

しかし少年の場合には家庭裁判所の管轄となり、全く別の手続が進んでいきます。
少年事件の場合、更生の可能性が高い、あるいは生育環境など外部的要因も大きいといった理由から、単に犯罪を責めるのではなく、環境を整えて更生させることを目指して別の制度が設けられているのです。

家庭裁判所に事件が送られると、最初に4週間程度、少年鑑別所に入れられて調査を受けることが想定されます。
少年鑑別所では、面接、心理検査、行動観察などが行われます。
その結果もふまえ、家庭裁判所調査官が中心となって、少年の非行の進み具合、家庭環境、更生のために必要な処遇等の判断が行われます。

調査官の判断をふまえ、少年審判を開くか否かの判断を、裁判官が行います。
比較的軽い事件であり、本人も反省しているなどの事情があれば、少年審判の不開始決定がなされ、前科も付かずにここで手続が終了となることもあります。
成人の事件における不起訴(起訴猶予)処分に近いものといえます。

そうでない場合は、少年審判が開始されます。

~少年審判の結果にはどんなものが?~

少年審判は、成人事件における刑事裁判にあたるものです。
少年審判
を経て、裁判官が審判結果を決めることになります。
審判結果としては以下のものが考えられます。

①不処分
少年審判が終わる頃には反省の態度が見られるようになり、再犯の可能性が低いような場合になされます。
審判不開始決定と同じく、成人事件における不起訴(起訴猶予)処分に近いものであり、ここで手続が終了となります。

②保護観察
保護観察所の指導・監督を受けつつ、少年を社会の中で生活させながら更生させていきます。
成人事件における執行猶予に近いものといえます。

③児童自立支援施設や児童相談所長などへの送致
非行性が②よりも進んでいる少年や、家庭環境に問題があるなどの事情により帰る場所がなく②の保護観察が行えない等の場合に、福祉施設に住ませつつ、社会の中で生活させ更生を目指すというものです。

④少年院送致
③よりも非行性が進んでいる少年について、原則として外出が許されない少年院で生活させ、更生させていくものです。
収容期間は刑法などの法律に書かれた懲役・禁錮の期間に拘束されません。
事件により異なりますが、平均すると1年ほどと言われています。

⑤検察官送致(逆送)
凶悪事件については、成人と同じ刑罰を受けさせるべきと判断されると、家庭裁判所から検察庁に事件が戻されます。
その後、追加の取調べなどの捜査がなされた上で、成人と同じ刑事裁判を受けるという流れになります。

今回の現住建造物等放火罪はかなり重い犯罪ですので、重い結果となることも考えられます。
しかし放火に至った原因やその後の反省の様子などをふまえ、柔軟に処遇が決められることになります。

~お困りの際はご相談を~

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
少年の更生に向けて最大限のサポートをしてまいりますので、少年が事件を起こしてお困りのご家族の方はぜひご相談ください。

入院患者虐待で看護士らを逮捕

2020-03-09

入院患者虐待で看護士らを逮捕

入院患者を虐待して看護士らが逮捕された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

【参考ニュース】
入院患者にトイレで放水など虐待疑い 看護師の男ら6人を逮捕 兵庫県警
(毎日新聞)

この事件は、精神疾患で入院中の患者に対し、看護師ら6名が虐待を繰り返したとして、準強制わいせつ罪監禁罪などの容疑で逮捕されたというものです。
逮捕された6名のうちの1名が、全く別の強制わいせつ事件を起こして逮捕され、警察がスマホを調べたところ、虐待の動画が見つかって発覚したということです。

盗撮を繰り返している人が逮捕されたといった事件では、スマホを調べて同じような盗撮の余罪が発覚するというのはよくあるパターンです。
しかし今回のように全く別の重大な余罪の発覚し、多くの人が逮捕に至ったというのは、やや特殊ではあります。

~準強制わいせつ罪とは~

今回、男性患者同士を無理やりキスさせたり、男性患者を裸にしてホースで放水したりといった行為が、準強制わいせつ罪に問われているようです。

ここで強制わいせつ罪準強制わいせつ罪という2つの犯罪の条文を見てみましょう。

刑法176条(強制わいせつ)
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
第178条1項(準強制わいせつ)
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。

176条が強制わいせつ罪です。
暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした場合に成立します。
無理やり体を触ったような場合ですね。

一方、178条1項の準強制わいせつ罪は、すでに気を失っている状態や抵抗できない状態の人の体を勝手に触ったり、このような状態にさせてから体を勝手に触ったりした場合に成立する犯罪です。
薬や酒で眠らせてからわいせつな行為をしたような場合に成立します。
則は強制わいせつ罪と同じく6か月以上10年以下の懲役となります。

今回の事件は、精神疾患の影響などで抵抗できない(心神喪失・抗拒不能の)状態にあった患者に対するものだったようです。
また、患者同士をキスさせたり、裸にして放水したという犯行だったとのことで、加害者の性欲を満足させる目的でなされる通常の性犯罪とは異なります。
しかし、性犯罪が成立する条件として、性欲を満足させるような目的があったことは不要とされています。
被害者の性的羞恥心を害するような、あるいは性に関する倫理に反するような行為であることに変わりはないので、準強制わいせつ罪に問われているということになるでしょう。

~監禁罪~

続いて監禁罪の条文も見てみましょう。

第220条
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

「逮捕」とは人を直接的に拘束し、「監禁」とは人を間接的に(一定区域内に)拘束して、行動の自由を奪うことを言います。
前者を逮捕罪、後者を監禁罪と言います。

本事件では、当時60代の男性患者を床に敷いた布団に寝かせ、転落防止用の柵がついたベッドを逆さにしてかぶせ、約20分監禁したとのことです。
柵を直接、体にかぶせているのであれば、人を直接的に拘束したとして逮捕罪となる可能性もあると思います。

ただ、刑罰はどちらにしろ同じ3か月以上7年以下の懲役となります。

~弁護士にご相談ください~

看護師らが患者を虐待するというのはショッキングな話ですが、特殊な環境の中で誤った方向に向かってしまったということなのでしょう。

もし、あなたやご家族が、同じような事件を起こして逮捕されたり、警察の取調べを受けた場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
謝罪・賠償、そして示談締結により被害者の権利回復を図りつつ、加害者の処分・判決が軽くなるようサポートしてまいります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
すでに逮捕されている事件では、弁護士が警察署での面会(接見)を行う初回接見サービスを、逮捕されていない事件では無料法律相談のご利用をお待ちしております。

死亡事故で無罪判決

2020-03-07

死亡事故で無罪判決

自動車で死亡事故を起こしたが、無罪判決がなされた事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

【参考ニュース】
女子高生死傷事故 被告に無罪判決 前橋地裁 予見「認められず」
上毛新聞

このニュースは、運転中に意識障害に陥り、被害者が死傷する事故を起こして過失運転致死傷罪に問われたが、無罪判決がなされたというものです。
意識障害が生じることを予見できなかったとして無罪となりましたが、どういうことなのか解説していきます。

~過失運転致死傷罪が成立する条件~

今回、無罪判決が出されたということは、過失運転致死傷罪の成立条件が満たされなかったということです。
成立条件を確認するために、まずは条文を見てみましょう。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
第5条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

この条文から考えると、

①自動車の運転上必要な注意を怠り
②よって人を死傷させた

という場合に、過失運転致死傷罪が成立することになります。

②の「死傷」とは死亡と負傷をまとめた表現です。
今回の事故では事故により被害者1名が死亡、もう1名が負傷していることに争いはないので、②は明らかに満たされます。

裁判では①を満たすかどうかが争われました。

※ 条文の「ただし」以降は、被害者が軽いケガにとどまった場合に、過失運転致傷罪で有罪だけれども、懲役や罰金を免除できるというものです。今回の事故は死亡事故ですし無罪判決の事例ですので関係ありません。

~「自動車の運転上必要な注意を怠り」とは~

①自動車の運転上必要な注意を怠りという条件は、「過失があったかどうか」という言い方もできます。
この①を満たすためには、簡単に言うと、

(A)事故が起こることが予見(予想)できた
(B)事故を回避する行動を取れたのに取らなった

という、さらなる2つの条件を満たす必要があることになっています。

※ 過失運転致傷罪だけでなく、過失の有無が問題となる犯罪(業務上過失致死傷罪など)はすべて、(A)結果が予見できたか、(B)結果回避行動を取れたのに取らなかったのか、の2つが検討されます。

今回の裁判では(A)、つまり意識障害が生じて事故が起こることが予見できたか、という点が最大の争点でした。

予見できていたのであれば、(A)を満たします。
そして運転しないなどの事故を回避する行動を取れたのに取らなかったわけなので(B)も満たし、結局①が満たされることになります。
そして前述のように②も満たすので、有罪ということになります。

一方、意識障害が生じて事故が起こることを予見できなかったのであれば(A)を満たさず、結局①が満たされないので無罪ということになります。

前橋地裁は、服用していた薬の副作用による急激な血圧低下が原因となった可能性があるが、被告が医師からこのような副作用の説明を受けた証拠はないなどの理由により、意識障害が生じて事故が起こることを予見できず、(A)および①が満たされないという判断をしたことになります。

現時点で検察側が控訴するかはわかりませんが、このような理由により無罪判決が出されたわけです。

※ 条件を満たせば有罪と書きましたが、厳密には、条件を満たしても別途、責任能力がないとして無罪になる可能性があります。今回の裁判では、被告が認知症だったことからこの点も争われていましたが、そもそも上記条件を満たさない時点で無罪ですので、責任能力についての判断はなされなかったと思われます。

~交通事故でお困りの方はご相談ください~

このように、交通事故でも難しい法的判断が必要になることがあります。
仮にそれほど争いがない事故であっても、謝罪・弁償して示談を結ぶ方法や、取調べでの答え方などわからないことが多いと思います。

普段、まったく犯罪に縁がない人でも犯してしまう可能性がある犯罪は交通関係の犯罪です。
もし、あなたやご家族が交通事故を起こしてお困りの際は、弁護士にご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
逮捕されている事件では、弁護士が警察署での面会(接見)を行う初回接見サービスを、逮捕されていない事件やすでに釈放された事件では無料法律相談のご利用をお待ちしております。

インターネットでタレントを侮辱し書類送検

2020-03-06

インターネットでタレントを侮辱し書類送検

インターネット掲示板でタレントを誹謗中傷し、侮辱罪の容疑で書類送検された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

【参考ニュース】
「気持ち悪い親子」タレント中傷で女2人を書類送検
Yahoo!ニュース(テレビ朝日提供)

この事件は、タレントの川崎希さんを誹謗中傷する言葉をインターネットの掲示板に書き込んだ女性2人が、侮辱罪の容疑で警察の捜査を受け、書類送検されたというものです。
2人は川崎さんを侮辱する書き込みをそれぞれ100件以上していたとのことです。

ここで、侮辱罪の条文を見てみましょう。

刑法231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

条文の中にある「事実を摘示しなくても」というのは、「○○と不倫していた」「過去に逮捕されたことがある」などの具体的な事実は書いていないという意味です。
具体的な事実を書いた場合は、それがウソでも本当でも名誉毀損罪の問題となります。
今回の事件では、「気持ち悪い親子」などの書き込みが問題となっており、具体的な事実が書かれていなかったということで、侮辱罪が問題となったのでしょう

そして、だれでも閲覧できるインターネットでのこういった書き込みは、「公然と人を侮辱した」といえます。

したがって、侮辱罪が成立することになると思われます。

罰則の「拘留」とは、1日以上30日未満、刑事施設に収容されるものです。
「科料」とは、1000円以上1万円未満の金銭徴収がされるものです。

~書類送検とは?~

比較的軽い犯罪では、犯人と疑われている被疑者逮捕されず、自宅から警察署などに出向いて取調べなどの一通りの捜査がなされた後、捜査書類が検察官に送付されます。
これを書類送検と言います。
今回の事件はこの段階ということです。

今後、検察官は追加で取調べなどの捜査を行い、被疑者を刑事裁判にかけるか(起訴)、かけないか(不起訴)の判断をします。

起訴されれば、無罪判決とならない限り、拘留や科料となります。
一方、軽い事件などでは検察官が不起訴処分として、前科も付かずに刑事手続が終わる場合があります。
今回は大目に見てもらうということです。

~発信者情報開示請求とは~

誹謗中傷を書き込んだ2人は、匿名で書き込みをしていました。
しかし川崎さんが昨年、プロバイダ責任制限法4条に規定された、発信者情報開示請求という手続きを利用して、書き込んだ女性の情報を特定できたことから、今回の立件につながりました。

この発信者情報開示請求は、

①投稿があったサイトの運営者に、投稿者のIPアドレス等の開示を請求
②このIPアドレス等から、投稿者が利用しているプロバイダを特定し、そのプロバイダに投稿者の住所・氏名などの情報開示請求を行う

という流れで行われます。

※ IPアドレスとは、インターネットに接続されているパソコンやスマートフォンなどに接続割り振られる番号です。この番号がわかれば、そのパソコン等をインターネットにつなぐ際に利用している通信業者(プロバイダ)がわかるので、②の請求が出来る可能性が出てきます。

ただし、必ず投稿者を特定できるとは限らず、特定できたとしても、何度も裁判手続きをしなければならないなど、書き込みをされた人にとって金銭的・時間的・精神的負担がとても強いものとなってしまいます。

とはいえ、匿名での投稿であっても投稿者が特定される可能性があります。
特定されれば上述の刑罰を受けて前科が付く可能性がありますし、被害者から慰謝料請求や、投稿者情報開示に要した費用も請求されるでしょう。

~弁護士にご相談ください~

一般的に、不起訴処分などの軽い処分を得たり、判決を軽くするためには、被害者に謝罪・賠償して示談を締結することが重要です。

しかし今回のような事件を起こしてしまった場合、上述のように慰謝料の他、開示請求費用も請求されるでしょうから、示談交渉は難しいものとなるでしょう。
示談金はいくらにすればよいのか、何と言って示談交渉すればいいのか、あるいは取調べでは何と答えればよいのかなど、不安な点も多いでしょう。

お困りの方はぜひ一度、弁護士にご相談いただければと思います。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
逮捕されていない事件では無料法律相談のご利用を、万が一逮捕されている事件では、弁護士が警察署での面会(接見)を行う初回接見サービスのご利用をお待ちしております。

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