万引き常習犯の量刑
宮城県栗原市に住むAさんは、万引きの常習犯です。
また万引きをしようと思い、近所にあるスーパーに入店しました。
万引きする商品を物色し、店員の目を気にしながら、自分のカバンに商品を入れました。
「よし、バレてないぞ」
そう思いながら店舗の出入り口から外に出たAさん。
しかし、犯行の様子を見ていた私服警官に声を掛けられ、店舗の事務所に連れていかれました。
(フィクションです)
~万引きで成立する犯罪~
万引きを繰り返す理由としては、本当に食べるものに困って、という場合もあります。
しかし、お金はあるのに万引きをすること自体をやめられないという依存状態に陥っている場合もあります。
これはクレプトマニア(他の名称として窃盗症など)と呼ばれる精神疾患の一つであり、医療的ケアが必要となることもあるでしょう。
万引きで成立が考えられる犯罪は、窃盗罪と建造物侵入罪です。
刑法第130条(住居侵入等)
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
第235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
窃盗罪の他に、スーパーという「建造物」に「侵入」したとして、建造物侵入罪が成立する可能性があります。
誰でも入ることができるスーパーに入ったことに対して犯罪が成立するのは違和感があるかもしれません。
建造物侵入罪における「侵入」とは、管理権者の意思に反する立ち入りをいうとされています。
そして万引き目的でスーパーに入ることは、スーパー側からすれば許せないことです。
したがって、管理権者の意思に反する立ち入りに該当し、建造物侵入罪が成立するわけです。
~牽連犯(けんれんぱん)~
建造物侵入罪と窃盗罪は、窃盗をするために建造物に侵入するという関係、すなわち手段と目的の関係にあります。
このような関係にある場合、二つの罪は牽連犯と呼ばれ、両者のうち最も重い犯罪の規定に基づいて刑罰が決められます。
刑法第54条1項
一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
前述の建造物侵入罪と窃盗罪の条文を見比べると、建造物侵入罪は3年以下の懲役または10万円以下の罰金とされ、窃盗罪は10年以下の懲役または50万円以下の罰金とされているので、窃盗罪の方が重いです。
したがって、窃盗罪の10年以下の懲役または50万円以下の罰金の範囲内で、裁判所が刑罰を決めることになります。
そうなると、建造物侵入罪の成立を認める意味がないと思われるかもしれませんが、建造物侵入罪も成立したことを考慮して刑罰を決めますので、窃盗罪のみの場合よりも重くなることが予想されます。
~併合罪~
さらに、Aさんは万引きの常習犯なので、より重く処罰される可能性があります。
今回の窃盗とは別の機会に行った窃盗についても証拠が揃い、同時に刑事裁判にかけられることになった場合は、複数の窃盗は併合罪(刑法45条以下)と呼ばれる処理がされます。
懲役刑を科す場合、窃盗罪が懲役10年以下ですので、刑法47条の規定により、1.5倍の15年以下の範囲内で懲役が科される可能性があるわけです。
罰金刑を科す場合は、窃盗罪は50万円以下ですので、刑法48条2項により「50万円×起訴された窃盗罪の数」の金額の範囲内で罰金が科される可能性があります。
~再犯加重~
Aさんに前科がある場合は、さらに重く罰せられる可能性があります。
刑法第56条第1項
懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
第57条
再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の二倍以下とする。
つまり、前科で実刑判決を受け服役し、出所日から5年以内に再犯した場合、通常の窃盗罪の2倍にあたる20年以下の範囲で懲役を科される可能性があるわけです。
一方、前科の犯罪が執行猶予判決だったのであれば、執行猶予が取り消され、前科の刑罰と今回の窃盗の刑罰の両方が科される可能性があります。
~常習累犯窃盗~
さらに、窃盗で過去10年以内に懲役6か月以上の執行を3回以上受けた者が再び窃盗を行った場合、常習累犯窃盗として、3年以上20年以下の懲役となる可能性があります(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律3条参照)。
前述の再犯加重も20年以下の懲役ですが、「○年以上」といった下限の設定がないので、刑法12条1項により、下限は1か月となります。
これに対し常習累犯窃盗の場合、より悪質性が強いので、下限が3年となるわけです。
~弁護士に相談を~
このように、法律上は万引きでも重い処罰を受ける可能性はあります。
しかし、凶悪犯罪ともいえないので、常習性がどの程度進んでいるかといった事情にもよりますが、不起訴(起訴猶予)や罰金刑で終わる可能性もあります。
弁護士としては、被害店舗に弁償して示談を締結したり、被疑者が反省の態度を示していること、家族の監督が望めること、再犯のおそれが低いことなどを主張し、軽い処分を目指していく弁護活動をしていくことになります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事弁護を専門とする事務所です。
事務所での法律相談は初回無料となっております。
窃盗罪や建造物侵入罪で捜査を受けたら、一度弊所の弁護士にご相談ください。
(築館警察署までの初回接見費用:43,200円)