警察官を殴って怪我をさせた事件を参考に、公務執行妨害罪と傷害罪の関係(観念的競合)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説いたします。
参考事件
宮城県亘理郡に住んでいる会社員のAさんは、お酒を飲んだ帰り道に公園のベンチで寝ていました。
そこに通りかかった巡回中の警察官が寝ているAさんを発見したため、Aさんを起こして職務質問をしようとしました。
まだ酔いが醒めておらず寝起きで機嫌の悪かったAさんは、警察官を殴ってしまい怪我をさせてしまいました。
Aさんは公務執行妨害罪と傷害罪の疑いで、宮城県亘理警察署に現行犯逮捕されることになりました。
公務執行妨害罪と傷害罪
上記の事件でAさんは公務執行妨害罪と傷害罪で現行犯逮捕されています。
刑法95条に公務執行妨害罪が定められており、その内容は「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」となっています。
「公務を執行するに当たり」に該当するのは、特定の職務の執行を開始してからこれを終了するまで、及び職務執行と時間的に接着し、切り離せない関係にあると見ることができる範囲内の行為を指します。
公務執行妨害罪における暴行は公務員に対して向けられた有形力(物理的な力)の行使であれば足り、公務員の身体に対して直接加えられていることまでは必要とされていません。
また、参考事件のAさんは警察官に暴力を行使した際に怪我をさせているため、傷害罪も同時に成立します。
刑法204条に傷害罪が定められており、その内容は「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」となっています。
傷害罪における傷害とは、人の生理的機能(生活機能)に傷害を与えることと、広く健康状態を不良に変更することを言います。
また、病気にかからせることや、昏倒させたり眠らせたり人の意識作用に障害を生じさせる行為も傷害に含みます。
参考事件のAさんは職務執行中の警察官に殴るという暴行を加え、さらに警察官に怪我をさせているので、公務執行妨害罪と傷害罪の両方が適用されるでしょう。
観念的競合
参考事件のような1つの行為が複数の罪にまたがる場合を観念的競合といいます。
Aさんは警察官を殴ることによって、警察官の公務を妨害(公務執行妨害罪)と、警察官の身体に傷害を負わせる(傷害罪)の、二つの犯罪に抵触しているので、典型的な観念的競合となります。
刑法54条1項には「1個の行為が2個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。」と記載されています。
そのため観念的競合は2つの罪を比較し、より重い法定刑が適用されることになります。
公務執行妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」となっていますが、傷害罪は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」となっているため、より重いと判断される傷害罪の法定刑が適用されることになります。
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