同時傷害で逮捕
傷害致死罪で同時傷害の特例に基づき逮捕された場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。
【事例】
岩手県奥州市に住むAさん。
バーで飲んだいたところ、偶然居合わせたVさんと口論になり、店の外に出てケンカを始めましたが、体力に勝るAさんはVさんに一方的に暴行を加える形になりました。
口論になったところを見ていた他の客Bさんが外に出たところ、Vさんが一方的にやられている様子を見て突如、
「こいつは最低な野郎だな」
などと言いながら、自らもVさんに暴行を加えました。
AさんもBさんも殺すつもりはありませんでしたが、Vさんは急性硬膜下血腫で死亡してしまいました。
打撲や切り傷などのケガはAさんの暴行とBさんの暴行の両方から生じていますが、死因となった急性硬膜下血腫が、AさんとBさんどちらの暴行によって生じたものなのかはわかりませんでした。
AさんとBさんは奥州警察署の警察官によって逮捕されました。
2人はどんな罪に問われることになるのでしょうか。
(事実をもとにしたフィクションです)
~まずは傷害罪が成立~
今回の事例は、AさんとBさんが共謀なしにそれぞれVさんに暴行を加えたが、死因がどちらの暴行から生じたのかわからないという特殊性があります。
これが成立する犯罪にどう影響してくるのでしょうか。
まずは両名とも、Vさんに暴行を加えて打撲や切り傷等の傷害を負わせているので、少なくとも傷害罪は成立することになります。
刑法第204条
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
条文上、傷害罪だけでも最長で15年の懲役が科されうるということになります。
もちろん、前科があるか、暴行方法の悪質さ、被害者のケガの程度などによって、判決内容は大きく異なってきます。
~傷害致死罪にも問われる?~
次に、AさんやBさんに殺意があれば殺人罪の成立が問題となりますが、殺意のない今回の事例では、傷害致死罪が成立するかが問題となります。
第205条
身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
これが傷害致死罪の条文です。
ここで、仮に今回の事例と違い、AさんとBさんが共謀の末にVさんに暴行を加え、Vさんを死亡させたのであれば、傷害致死罪の共同正犯が成立します。
第60条
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
そして共同正犯の場合、共犯者がした行為についても責任を負うことになっています(一部実行全部責任)。
したがって、死因となった急性硬膜下血腫を生じさせた暴行を共犯者が行った場合でも、死亡結果まで責任を負わせることができるので、傷害致死罪が成立します。
一方、今回のように共謀がない場合は、同時傷害に特例という規定が問題となります。
第207条
二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。
これが同時傷害の特例と呼ばれる条文です。
今回の事例はまさに、「二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず」に該当します。
したがって、「共同して実行した者でなくても」(すなわち共謀に基づいて犯罪をした場合でなくても)、「共犯の例による」(すなわち結局は上記の共同正犯と同様、全部の責任を負わせることができる)ということになります。
傷害致死罪の責任を免れるためには、死因となった急性硬膜下血腫が自らの暴行によって生じたのではないと証明する必要があるのです。
そうすると、AさんとBさんのどちらの暴行により死因を形成したかわからない本事例においては、両名とも傷害致死罪の責任を負うことになるでしょう。
~弁護士にご相談を~
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https://sendai-keijibengosi.com/keijijikennonagare/
逮捕されると、どのような罪を負うのか、どれくらいの刑罰を受けるのか、取調べにはどう受け答えしたらよいのかなど不安点が多いと思いますので、ぜひお早めにご相談ください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
ご家族などから初回接見のご依頼をいただければ、拘束されている警察署等にて、ご本人に面会(接見)し、上記の不安点などについてご説明いたします。
接見後にその結果をご家族にご報告致しますので、報告を聞いていただいた上で、正式に弁護活動を依頼するかどうかを決めていただけます。
また、逮捕されていない場合やすでに釈放された場合には、弁護士事務所での法律相談を初回無料で行っております。
傷害致死罪などで逮捕された、捜査を受けているといった場合には、ぜひ一度ご連絡ください。