薬物事件と違法捜査②

薬物事件と違法捜査②

~前回からの続き~

ケース1
Aさんは覚せい剤の粉末の入ったポリ袋を上着の胸ポケットに入れて仙台市内の繁華街を歩いていました。
覚せい剤事犯等の多発地帯を巡回中のP巡査は、Aさんについて薬物中毒者に顕著な特徴が認められるという理由で職務質問をしました。
P巡査は、職務質問中、Aさんの承諾がないのに、Aさんの上着の胸ポケットを外から触ったところ、何か入っている感じでふくらんでいたため、ポケットの中身を出すよう求めました。
Aさんは、自らポケットの中身を出そうとはせず、長時間にわたる警察官の説得に対して黙ったままであったため、P巡査はAさんの上着のポケット内に手を差し入れて中身を掴みだすと、覚せい剤と思われる粉末が出てきました。
粉末を試薬によって検査すると覚せい剤と判明したため、Aさんは覚せい剤所持の現行犯として宮城県仙台中央警察署逮捕されてしまいました。
Aさんは任意の職務質問でポケットに手を入れられたことに不満を持っており、違法捜査ではないかと思っています。
(フィクションです。)

ケース2
ある日、仙台市青葉区覚せい剤の売人をしているBさんの自宅に、宮城県仙台北警察署の警察官が訪れました。
警察官はBさんに有無を言わさずにBさん宅内の捜索を開始しました。
Bさんの部屋の中から覚せい剤が見つかったため警察官は覚せい剤を差し押さえるとともに、Bさんを覚せい剤所持の容疑で現行犯逮捕しました。
Bさんは、自身が受けた捜査が違法捜査ではないかと思っています。
(フィクションです。)

ケース1のAさんとケース2のBさんは、自身が受けた捜査が違法捜査ではないかと思っています。

~ケース1について~

ケース1のAさんの事件について見てみます。

所持品検査とは、警察官が職務質問に付随して行う任意の手段であるため、原則は同意を得て所持品検査を行わなくてはいけません。
そのため、職務質問中、所持品検査を所持人の承諾なく行うことは適法であるかが問題になります。
判例では、「警職法二条一項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容される場合があると解すべきである」とされています。
ケースに類似した事件(最高裁昭和53年9月7日判決)では、「警察官が、覚せい剤の使用ないし所持の容疑がかなり濃厚に認められる者に対して職務質問中、同人の承諾がないのに、上衣左側内ポケットに手を差し入れて所持品を取り出した上検査した行為は、一般にプライバシー侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するものであるから、職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱し違法である」と判示されています。

所持品検査が違法であるとされた場合、つまり、証拠の収集手続が違法捜査にあたる場合、証拠の証拠能力が否定されることがあります。
証拠能力が否定されれば、その証拠は事実認定に用いることができない、つまり、その証拠を刑事裁判で用いることができなくなります。
そうなれば、検察官が有罪立証に失敗し無罪判決となる可能性があります。
ただし、証拠能力が否定されるには、「証拠物の押収等の手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる」ことが必要であり、単に手続に違法があるというだけで、直ちに証拠能力が否定されるわけではありません。

ケース1のAさんの事件と類似した事件である最高裁昭和53年9月7日判決では、所持品検査をきっかけとして押収した「覚せい剤ようの粉末」につき、
(1)所持品検査として許容される限度をわずかに 超えたにすぎないこと
(2)警察官に令状主義を潜脱しようとする意図があったわけではなかったこと
(3)所持品検査に際し強制等のされた事跡も認められないこと
から証拠能力を肯定しています。

~ケース2について~

薬物事件逮捕される場合、逮捕の前に捜索差押えが先行する場合があります。
原則的に、捜索差押えは裁判所が発付した令状がなければできず、令状は捜索差押え時に処分を受ける者に呈示しなければなりません。
令状の呈示は、執行前にすることが原則とされていますが、薬物事件の場合は立入り後に呈示することも違法ではないとされています。
しかし、もし一切令状を呈示していないならば違法となる可能性があります。
また、捜索差押えに抵抗しようとして警察官に取り押さえられているような場合、警察官により過度の有形力が行使されていれば違法となる可能性もあります。

ケース1のAさん、ケース2のBさんのような場合、弁護士は、違法捜査の可能性を精査して、違法捜査が行われた場合は捜査機関への抗議を通じ、被疑者の利益のために、適正手続の実現に努めます。

違法捜査にあたるか、覚せい剤の証拠能力が肯定されるかについては、薬物事件に詳しい弁護士に相談されることがお勧めです。
捜査機関の活動に納得のいかない方、違法捜査ではないかとお困りの方は、薬物事件に詳しい弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の無料法律相談または初回接見サービスをご利用ください。
(宮城県仙台中央警察署 初回接見費用:34,100円)
(宮城県仙台北警察署 初回接見費用:34,900円)

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