窃盗症で刑罰が軽くなる?
万引きがやめられない窃盗症であることを理由として刑罰が軽くなったという事件がありました。
保釈中の万引き、異例の減刑 窃盗症による心神耗弱認定
Yahoo!ニュース(朝日新聞提供)
この事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。
~窃盗症(クレプトマニア)とは~
覚せい剤や大麻などの薬物やアルコールなどは、依存症になると自分の意志ではやめることが難しくなり、病院での治療などが必要になってくるという話は聞いたことがある方も多いと思います。
これと同じように、窃盗についても依存症のような状態になってしまい、簡単にはやめられなくなってしまうケースがあります。
窃盗症やクレプトマニアと呼ばれており、精神疾患の1つとされています。
窃盗症になると、経済的に困っているわけではなくても万引きを繰り返してしまうのです。
悪いことだとはわかっていても、成功した時に感じる達成感などが忘れられず、犯行を繰り返してしまいます。
窃盗症は薬物依存症と同じく、専門的な治療を行っている病院に通ったり、窃盗症で悩んでいる方々が集うグループミーティングに通うなどの対策が必要となってきます。
~刑罰が軽くなった判決~
通常、犯罪を繰り返すと、受ける刑罰は重くなっていきます。
万引きの場合も、最初は不起訴処分や罰金刑、次は執行猶予付きの懲役刑、それでも再びしてしまった場合には実刑判決などというように、判決が重くなっていくのが通常です。
しかし今回のニュースの東京地裁判決は、重度の窃盗症による心神耗弱(シンシンコウジャク)状態にあったことを理由に刑を軽くしました。
求刑懲役1年6か月に対し、実刑判決ではあるものの、懲役4カ月という軽い判決を下したのです。
心神耗弱というのは、①物事の善悪を判断し、②その判断に従って行動する能力が弱まっている場合に、刑罰を軽くするというものです(刑法39条2項)。
単に①②の能力が弱まっているのではなく、どちらかが完全に欠いていれば、心神喪失により刑罰は免除されます(刑法39条1項)。
精神疾患などにより犯罪をしないという選択が難しい、あるいはできない場合には、後で責めてもしょうがないから、刑務所には入れずに病院で治療を受けさせた方がいいといった判断がされるということです。
よく重大犯罪のニュースで聞かれる、「裁判で責任能力が争われている」というのは、心神喪失や心神耗弱の状態にあったのではないかと争われているということです。
今回の判決は、窃盗症であることのみを理由として減刑されたという珍しい判決でした。
~社会の中で更生させる~
窃盗症の人は、万引きを繰り返すわけですから、今回の判決に対しては、犯罪を繰り返す人ほど刑罰が軽くなってしまうという反対意見もあるでしょう。
しかし、万引きを繰り返しているということは、それだけ適切な治療を受けなければ回復が難しいとも言えます。
もちろん刑務所の中でも治療が受けられないわけではありません。
しかし、依存症の治療には、社会の中に身を置き、犯行をやろうと思えばやれる環境の中で、いかに思いとどまるかという訓練をする必要があるとも言われています。
刑務所に長期間入れたとしても、単にその期間中に万引きできなくなるだけであり、必ずしもベストな治療が受けられるわけではないから、真に更生させるためには、刑罰以外の方法によるべき、という考え方を強く押し出したのが今回の判決ということになります。
このような考え方などに基づき、すでに刑の一部執行猶予という制度も出来ています(刑法27条の2以下)。
これは一度刑務所に入れるものの、その期間を短くして、残りの期間を執行猶予とし、社会の中で更生を目指していくというものです。
薬物犯罪などで利用されています。
今回の判決がこのまま確定するかわかりませんが、今後、心神耗弱や刑の一部執行猶予の判決が増えていくかもしれません。
~弁護士にご相談ください~
窃盗症からの更生および軽い判決を目指すためには、専門的な治療や被害店舗に謝罪・賠償して示談を結ぶといった対応が必要となってきます。
しかし、あなたやご家族が万引きをしてしまった場合、具体的にどのように対応して行けばよいのかわからないと思います。
事件に応じたアドバイス及びサポートをさせていただきますので、ぜひ一度弁護士にご相談いただければと思います。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
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