ネグレクトで保護責任者遺棄致死罪
宮城県栗原市に1歳の長女Vと暮らすシングルマザーのAは、Vの育児に疲れ果てて、Vに十分な食事や水分を与えないようになりました。
ある雪の降る寒い日、暖房をつけていない部屋にVを残して、Aが丸1日外出して帰宅したところ、Vはひどく衰弱していました。
翌日病院に連れて行こうとAは考えていましたが、翌朝にはVが動かなくなっていました。
Aは、消防署と警察署に連絡して、消防職員によってVの死亡が確認されました。
Aは、保護責任者遺棄致死罪の疑いで宮城県警察若柳警察署に逮捕されました。
(フィクションです。)
~ネグレクトと保護責任者遺棄罪~
昨年12月13日、盛岡地裁で、当時1歳9か月の長男に対して十分な食事や水分を与えないまま自宅に放置して死なせたとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた父親に対する裁判の判決公判が開かれ、懲役5年の実刑判決が言い渡されました。
裁判長は「妻と別居状態で唯一の保護責任者だったにも関わらず、最低限の保護すら尽くさず犯行態様は悪い」と述べた上で、「逮捕当初から犯行を認め反省の言葉を述べている」などとして懲役6年の求刑に対し、懲役5年の実刑判決を言い渡したそうです。
今回の事例や、盛岡地裁で判決が言い渡された事件のように、幼い子どもに十分な食事や水分を与えないまま放置して死なせてしまうという痛ましい事件が時折報道されます。
子供が健康に生活していくための衣食住の世話や保護をせずに,親としての責任を放棄して子供を放置しておくことは、ネグレクトや育児放棄と呼ばれます。
具体的には、食事を与えない,着替えや入浴をさせずにひどく不潔にする、家に閉じ込める、病気の子どもを病院に連れて行かない、などの行為がネグレクトに当たるとされます。
ネグレクトは保護責任者遺棄罪に当たる可能性があります。
保護責任者遺棄罪は、保護義務のある人が扶助を必要とする人(幼児や高齢者、身体障害者、病人など)を遺棄する、あるいはその人が生存に必要な保護をしない場合に成立しうる犯罪です。
ここでいう保護責任が認められるのは、典型例としては親の子に対する義務、夫婦間の扶助義務、看護契約・事務管理により重病人を看護する義務がある場合です。
ここで言う「遺棄」とは、保護を要する人を保護のない状態に置くことにより、その生命・身体を危険にさらすことを指しています。
保護すべき人を場所的に移動させる行為(移置)だけでなく、置き去りのように危険な場所に放置する行為も含んでいます。
保護責任者遺棄罪には、保護すべき者に対して、生存に必要な保護をしない行為(不保護)も含まれています。
今回のAのケースについて検討してみます。
1歳の子供にとって扶助は必要であり、Aはシングルマザーであるため、AがVの唯一の保護責任者だと考えられます。
その子供に十分な食事や水分を与えず、雪の降る寒い日に暖房をつけていない部屋にVを残して丸1日外出するというのは、保護すべき者に対して生存に必要な保護をしなかったという「不保護」に当てはまると考えられます。
そして、Aの「不保護」の結果、長女Vは亡くなっていますので、保護責任者遺棄致死罪に問われる可能性が高いと思われます。
保護責任者遺棄致死罪は、刑法第219条において、傷害の罪と比較して重い刑により処断するとされているため、3年以上の有期懲役と非常に重い刑が科せられることになります。
~殺人罪との区別~
保護責任者遺棄致死罪の場合には、殺人罪との区別が問題となる場合があります。
事例のように、子どもに食事を与えず死亡させた行為形態の場合、保護責任者遺棄致死罪ではなく殺人罪が成立する場合もあります。
殺人罪か保護責任者遺棄致死罪になるかは、保護をしなかった者にどのような認識があるのかという点で区別されます。
助けを必要とする者が、死んでもよい、ないしは、死んでもしかたないという風に考えていた場合には、未必の殺意があるとして殺人罪が成立します。
これに対し、死んでしまうとは考えていなかったような場合には、保護責任者遺棄致死罪が成立します。
~保護責任者遺棄致死罪に問われたら~
保護責任者遺棄致死罪の刑事事件では、不起訴処分となる見込みは極めて薄く、ほぼ間違いなく検察官によって起訴され、裁判(公判)が開かれることが見込まれます。
行為態様や被害者との関係などによっては、かなり長期の実刑判決が言い渡されることも珍しくありません。
保護責任者遺棄致死罪は、成立するかどうか難しい犯罪であり、法的な評価など多岐にわたる点が争いになりえます。
加えて、保護責任者遺棄致死罪は,裁判員裁判で審理されることになります。
そのため、刑事事件と裁判員裁判に対する豊富な知識と経験、スキルが要求される犯罪類型といえます。
不当に重い量刑を避ける、執行猶予付きの判決を得るためには、刑事事件及び裁判員裁判に精通した弁護士に依頼して、被告人にとって有利になる事情をしっかりと主張し、公判で認定してもらうことが大切です。
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