ひき逃げと時効
ひき逃げ事件と時効について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。
【参考記事】
ひき逃げ死亡事件 時効まであと1年「自首してください…」息子亡くした両親の涙
Yahoo!ニュース(柳原三佳さん執筆)
ひき逃げ犯人が見つからないまま時効が近付いたり、時効が成立してしまったというニュースを見ることがあるかもしれません。
この参考記事は、被害者が路上で倒れているのが発見され、その後死亡した事故に関するものです。
警察はひき逃げと判断しましたが、目撃者や証拠が乏しいためか加害者が見つかっていません。
救護義務違反(助けずに逃げた部分の罪)はすでに時効が成立し、過失運転致死罪(事故を起こして死亡させた部分の罪)についても時効が迫っているとのことです。
~成立する犯罪~
ここで、ひき逃げ事件で成立する犯罪を確認しておきます。
まずは、交通事故を起こしてしまい、被害者を死亡させたことについて、過失運転致死罪が成立する可能性があります。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
第5条(過失運転致死傷)
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
さらに、被害者を救助せず逃げてしまった場合、道路交通法に定められた①被害者を救護する義務と、②警察官への報告義務に違反したことになります。
それぞれ以下のような刑罰が定められています。
①救護義務違反(道路交通法72条1項前段・117条2項)
→10年以下の懲役または100万円以下の罰金
②報告義務違反(道路交通法72条1項後段・119条1項10号)
→3か月以下の懲役または5万円以下の罰金
~時効期間が異なる~
前述のように参考記事の事故では、救護義務違反はすでに時効が成立し、過失運転致死罪についても時効が迫っています。
犯罪によって時効期間が異なるので、このような違いが生まれています。
時効制度について詳しくはこちらをご覧ください
昔の犯罪で逮捕【時効】
このリンク先の解説を前提に説明しますと、過失運転致死罪は、①人を死亡させた罪で、②禁錮以上の刑罰が定められており、③死刑は定められていない罪で、最大で懲役7年ですので、刑事訴訟法250条1項3号により、時効期間は10年ということになります。
一方、救護義務違反と報告義務違反は、被害者が死亡したか否かに関わらず成立する犯罪ですし、死亡に至る傷害は自動車がぶつかったこと自体から生じたことから、①人を死亡させた罪には当たらないこととなっています。
したがって250条2項が適用されます。
そして、救護義務違反は最大で10年の懲役ですから、4号に該当し、時効期間は7年となります。
報告義務違反は最大で懲役3か月ですから、6号に該当し、時効期間は3年となります。
したがって事故から9年が経過している参考記事の事故では、救護義務違反と報告義務違反のすでに時効は成立しており、過失運転致死罪については時効まで1年を切ったことになります。
~危険運転致死罪なら時効期間は20年~
仮に、飲酒運転で正常な運転が困難な状態で運転していたり、進行の制御が困難な速いスピードで走行して死亡事故を起こしたといった特に悪質なケースでは、より重い危険運転致死罪(自動車運転処罰法2条)が成立する可能性も考えられます。
この罪は①人を死亡させた罪で、②禁錮以上の刑罰が定められており、③死刑は定められていない罪であり、最大で20年の懲役ですので、刑事訴訟法250条1項2号により、時効期間は20年となります。
そうすると、事故から9年が経過した今回の事故でも、時効まであと11年近くあることになります。
しかし、すでに9年経過していることから、たとえ加害者がわかったとしても、当時のアルコールの数値やスピードを証明できず、危険運転致死罪を適用することは難しいと思われます。
~事故を起こしたら弁護士にご相談を~
時効が問題となっている場合に限らず、あなたやご家族が交通事故を起こした場合には、ぜひお早めに弁護士にご相談ください。
謝罪・賠償・示談締結などにより、被害者の方の被害の回復を図るとともに、加害者の方の早期釈放や軽い処分・判決に向けて活動してまいります。
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