カッターを振りかざして殺人未遂
宮城県村田町に住むAさんはある日、妻のVさんと口論になりました。
最初は口で怒鳴るだけでしたが、怒りが治まらなくなったAさんは、脅すつもりでカッターナイフを持ち出し、Vさんの方に向けて振りかざしたところ、Vさんの肩付近に当たり、全治2週間の切り傷を負わせました。
Vさんの悲鳴を聞いた隣人が駆け付け、救急車と警察を呼び、Aさんは殺人未遂罪の現行犯で大河原警察署に逮捕されました。
(フィクションです)
~成立する犯罪は?~
AさんはVさんを脅すつもりでカッターを振りかざしていますが、Vさんを殺すつもりはもちろん、ケガを負わせるつもりもありませんでした。
しかしAさんは殺人未遂罪で逮捕されています。
Aさんにはどういった罪が成立するでしょうか。
今回、問題となるのは犯罪は、暴行罪・傷害罪・殺人未遂罪です。
刑法
第208条(暴行)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第199条(殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
第203条(未遂罪)
第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。
~暴行罪~
まず、Vの近くでカッターを振りかざした時点で、少なくとも暴行罪は成立すると考えられます。
暴行罪における「暴行」とは人に身体に対する不法な有形力の行使をいいます。
仮にカッターがVに当たらなくても、体の近くで振りかざせばVがケガをしてしまうおそれが出てくるので、人の身体に対する不法な有形力の行使に当たるといえます。
したがって暴行罪が成立するわけです。
~傷害罪~
次に、本件ではVに全治2週間の切り傷を負わせているので、ケガをさせるつもりがなくても傷害罪が成立すると考えられます。
一般に犯罪が成立するためには、故意があること、すなわち、わざとやったことが必要とされえています(刑法38条1項参照)。
しかし、ある犯罪を行うと、より重い犯罪結果が生じる危険が一般的に生じるという関係にある場合に、軽い犯罪を行う故意さえあれば、重い犯罪についても成立する場合があります(「結果的加重犯・けっかてきかちょうはん」と呼ばれます)。
暴行罪を犯すと、相手にケガまでさせてしまう危険も一般的に生じるといえるので、暴行罪と傷害罪は結果的加重犯と呼ばれる関係にあります。
したがって軽い方の暴行の故意があれば、重い方の傷害の故意がなくても、傷害罪が成立します。
~殺人未遂罪~
さらに本件では傷害罪にとどまらず、殺人未遂罪まで成立するのでしょうか。
両者の区別は、被疑者の故意の内容によって行います。
つまり、殺すつもりでカッターを振り回したが殺すまでは至らなかった場合が殺人未遂罪、殺すつもりがなかった場合は傷害罪となります。
殺すつもりの有無は、事件当時の被疑者の内心の出来事なので、客観的に判断することができません。
そこで、外部的な状況を総合的に考慮して判断します。
たとえば、使った凶器が殺傷能力の高い大きなナイフであれば、小さなカッターナイフを使った場合よりも、故意があったと判断される確率が高まります。
その他、被害者の人体のうち命にかかわりやすい部分を傷つけたのか(足や腕よりも頭・首・腹などの方が殺すつもりだったと推測しやすい)、傷が深いかどうか(深ければ殺すつもりで強く刺したと推測しやすい)、殺人をするほどの動機があったのか、といった点などが考慮されます。
もちろん、事件後の取調べで被疑者が故意の有無についてどう供述しているのかも考慮されます。
Aさんの場合もこれらの諸事情を考慮して判断されます。
~弁護士に相談を~
殺人未遂罪や傷害罪などで逮捕された場合、最終的に何罪で有罪となる可能性があるのか、刑罰の重さはどの程度になりそうか、どのような刑罰を今後どのような手続が進んでいくのか、取調べではどのように受け答えしたらよいのか等々、わからないことが多く不安だと思います。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事弁護を専門とする弁護士事務所です。
逮捕中あるいは勾留中の場合には、ご家族などからご依頼頂ければ、留置されている警察署等に、すみやかに接見に伺います。
また、逮捕・勾留されていない場合には、事務所で初回無料の法律相談を受けることもできます。
接見や法律相談では上記のような疑問にお答えしますので、ぜひ一度ご相談ください。
(大河原警察署への初回接見費用41,600円)