司法書士による戸籍の不正取得事件
司法書士による戸籍の不正取得事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。
【刑事事件例】
宮城県塩釜市で司法書士法人を経営しているAさんは,友人の探偵社を経営しているBさんに「対象者の戸籍謄本や住民票を代わりに取得してくれないか」と依頼されました。
Aさんは,司法書士法人の経営不振に陥っていたことから,Bさんの依頼を承諾し,戸籍等を不正に請求(不正取得)し,Bさんの探偵社に提供しました。
戸籍等の請求に当たっては,虚偽と認識しながらも,「損害賠償請求に伴う書類作成のため」などと虚偽に記載した請求書を利用・提出しました。
その後,戸籍を不正に取得された被害者の方が宮城県塩釜警察署に対して戸籍の不正取得事件の被害を訴えました。
その結果,Aさんは戸籍法違反などの容疑で逮捕されてしまいました。
(2021年8月5日に毎日新聞に掲載された記事を参考に作成したフィクションです。)
【戸籍の不正取得は何の犯罪になり得るのか】
刑事事件例では,探偵社を経営するBさんは戸籍・住民票を結婚相手の身辺調査のために利用したかったのだと考えられます。
この探偵社を経営するBさんの依頼に応じて,司法書士が第三者の戸籍謄本などを取得できる「職務上請求書」を悪用した場合,戸籍法違反,住民基本台帳法違反,有印私文書偽造・同行使罪が成立する可能性があります。
【戸籍法違反とは】
戸籍法135条
偽りその他不正の手段により,第10条若しくは第10条の2に規定する戸籍謄本等,第12条の2に規定する除籍謄本等又は第120条第1項に規定する書面の交付を受けた者は,30万円以下の罰金に処する。
「偽りその他不正の手段により,」「第10条の2に規定する戸籍謄本等」「の交付を受けた者」は,戸籍法違反の罪が成立し,「30万円以下の罰金」が科されます。
【住民基本台帳法違反とは】
住民基本台帳法50条
偽りその他不正の手段により,第11条第1項の規定による住民基本台帳の一部の写しの閲覧をし,第12条第1項若しくは第2項の住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書の交付を受け,第20条第1項の戸籍の附票の写しの交付を受け,又は第30条の37第2項の規定による開示を受けた者は,10万円以下の過料に処する。
「偽りその他不正の手段により,」「第12条第1項若しくは第2項の住民票の写し」「の交付を受け」「た者」は,住民基本台帳法違反の罪が成立し,「10万円以下の過料」が科されます。
【有印私文書偽造罪・同行使罪とは】
刑法159条1項
行使の目的で,他人の印章若しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し,又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は,3月以上5年以下の懲役に処する。
刑法161条1項
前2条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
司法書士が職務上請求書を使用する場合,職務上請求用紙を使用するところ,上記用紙は司法書士会が一元的に管理し,全国の司法書士会には配布されていることと思います。
この職務上請求書を司法書士が偽造した場合,有印私文書偽造罪・同行使罪が成立する可能性があります。
有印私文書偽造罪・同行使罪を犯した者には,「3月以上5年以下の懲役」が科されます。
【司法書士の資格剥奪・欠格事由とは】
司法書士法5条
次に掲げる者は,司法書士となる資格を有しない。
1号:禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなつてから3年を経過しない者
すでに述べたように,有印私文書偽造罪・同行使罪を犯した者には,「3月以上5年以下の懲役」が科されます。
そして,有印私文書偽造罪・同行使罪の刑事罰である「3月以上5年以下の懲役」は「禁錮以上の刑」にあたるため,司法書士の資格剥奪・欠格事由に該当する可能性があります。
そこで,刑事事件例では,有印私文書偽造罪・同行使罪で起訴されてしまうことを回避するための刑事弁護活動が必要になってくるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部は,刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
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