刑の一部執行猶予の特則

【薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律】

第2条

2 この法律において「薬物使用等の罪」とは、次に掲げる罪をいう。

一 刑法第139条第1項若しくは第140条(あへん煙の所持に係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪

二 大麻取締法第24条の2第1項(所持に係る部分に限る。)の罪又はその未遂罪

三 毒物及び劇物取締法第24条の3の罪

四 覚せい剤取締法第四41条の2第1項(所持に係る部分に限る。)、第四41条の3第1項第1号若しくは第2号(施用に係る部分に限る。)若しくは第41条の4第1項第3号若しくは第5号の罪又はこれらの罪の未遂罪

五 麻薬及び向精神薬取締法第64条の2第1項(所持に係る部分に限る。)、第64条の3第1項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)、第66条第1項(所持に係る部分に限る。)若しくは第66条の2第1項(施用又は施用を受けたことに係る部分に限る。)の罪又はこれらの罪の未遂罪

六 あへん法第52条第1項(所持に係る部分に限る。)若しくは第52条の2第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪

(刑の一部の執行猶予の特則)

第3条 薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第27条の2第1項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第2条第2項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。

(刑の一部の執行猶予中の保護観察の特則)

第4条 前条に規定する者に刑の一部の執行猶予の言渡しをするときは、刑法第27条の3第1項の規定にかかわらず、猶予の期間中保護観察に付する。

2 刑法第27条の3第2項及び第3項の規定は、前項の規定により付せられた保護観察の仮解除について準用する。

(刑の一部の執行猶予の必要的取消しの特則等)

第5条 第3条の規定により読み替えて適用される刑法第27条の2第1項の規定による刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについては、同法第27条の4第3号の規定は、適用しない。

2 前項に規定する刑の一部の執行猶予の言渡しの取消しについての刑法第27条の5第2号の規定の適用については、同号中「第27条の3第1項」とあるのは、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第4条第1項」とする。

【刑法27条の2】

次に掲げる者が3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、1年以上5年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。

一  前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

二  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者

三  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

2  前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。

3  前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは、第1項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。

1 刑の一部執行猶予とは?

懲役刑を宣告する判決にはいくつかの種類があります。

①死刑

これは、文字通り被告人を死亡させる刑です。

②実刑判決

これは、判決が確定した場合に、そのまま刑務所に行くことになる判決です。判決で決められた年数刑務所に行くことになります(仮釈放もありますが、これは刑務所に行ってから決められます。)
実刑判決には、無期懲役刑と懲役○○年という具体的な年数が決定している場合の2種類があります。

③執行猶予判決

これは、判決が確定した場合に、そのまま刑務所に行くのではなく、判決で決められた数年間に犯罪を犯さず過ごした場合には、刑務所に行かなくて済みますが、犯罪を犯した場合には刑務所に行くことになるという刑です。
例えば
被告人を懲役3年に処する。
その刑を5年間猶予する。
というような判決が、執行猶予判決になります。この場合、
5年間新たに犯罪をしなければ、刑務所に行くことはありませんが、もしも犯罪をしてしまった場合には、3年間刑務所に行くことになります

なお、執行猶予判決をするためには、懲役○年の部分が3年以下でなければなりません。
また、その刑を●年間猶予するという部分は、5年以下となります。

④一部執行猶予判決

平成28年より新たに設けられた形の判決です。
例えば
被告人と懲役3年に処する。
その一部である6月の執行を2年間猶予する。
2年間は保護観察を付する。
というような判決になります。この場合、
まず、2年6か月は刑務所に行くことになります。残り6か月については、刑務所を出た後2年間犯罪を犯さなければ刑務所の中に戻らなくて済みますが、もし犯罪を犯してしまった場合には、残り6か月も服役することになります。
というような意味です。

通常の懲役刑と比較して、早期に刑務所から出ることができるので、有利な判決となります。
3年以下の懲役でなければつけることができないのは同じです。

2 薬物事犯の特例

(1)通常の場合

通常の場合、一部執行猶予判決ができるのは「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」に限定されています。

(2)薬物事犯の場合

薬物事犯の場合は、刑務所内で更生を図ることも重要ですが、外の世界で適切な治療を受け、再犯防止プログラムを受講することも大切です。

そこで、通常の場合よりも緩やかに一部執行猶予を付することができます。

「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」

波線の部分が追加されています。薬物依存に対しては、治療の有効性があると考えられるため、通常の場合よりも広く刑の一部執行猶予が認められるようになっています。

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