1.人身事故・死亡事故に関する法律
(1)危険運転致死傷の成立
近年、重大な交通事故が多数発生したことにより、自動車による事故に関する法律が新しく制定されたり、元々の条文が改正されたりしています。
かつて、自動車による事故は、業務上過失致死傷罪という罪で処罰されていました。この罪は、自動車による事故のために特別に設けられたものではなく、日常で起きる様々な事故に対応するためのものでした。
また、危険な運転行為に関しても、殺人や傷害罪に当たらない限りには、すべて業務上過失致致傷罪に留まり、最高でも懲役5年と、非常に軽い刑となっていました。
そんな中、高速道路で、飲酒運転のトラックが乗用車に突っ込み、車に乗っていた幼い子ども2人が焼死するという事件が発生しました。当時の法律では、業務上過失致死罪しか問えなかったのですが、これではあまりにも軽すぎるという声が多く上がりました。
これを受け、国会は平成13年、危険運転致死傷罪を新たに新設することとなりました。
(2)準危険運転致死傷の成立
しかし、制定された危険運転致死傷罪は、成立のための要件がとても厳しいものでした(詳しくは、このページの後半をご覧ください)。
実際、実質的な悪質性がありながらも、要件を満たすことができないとして、自動車運転過失致死傷罪に留まるというケースが多発しました。
そこで、危険運転致死傷罪の要件を緩和した、新たな犯罪類型が登場しました。それが、準危険運転致死傷罪です。
2.危険運転致傷罪
(1)危険運転致死傷罪とは?
前述のように、危険運転致死傷罪は、業務上過失致死傷罪の適用が不当であると考えられたケースへの適用を目指して制定されました。
危険運転致死傷罪が適用されるのは、①一定の類型に当てはまる場合②人が死亡・負傷した場合です。法定刑は、人をけがさせた場合には15年以下の懲役、人を死亡させた場合には1年以上の懲役となっています。
(2)具体的な類型
☆いずれの類型であっても、自分が以下の類型に該当するような行為を行っている(例えば、正常な運転が困難な状況にある)という認識が必要になります。
- 酩酊運転(2条1号)
「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」で自動車を走行させ、よって、人を死傷させる罪です。ここでの薬物は、違法薬物(覚せい剤や大麻等)に限られず、睡眠薬等の医薬品も含まれます。
正常な運転が困難な状態とは、危険を的確に把握し、対処することができない状態のことを指すとされています。
- 制御困難運転(2条2号)
進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させ、よって、人を死傷させる罪です。速度違反のように、何キロオーバーということが数値で決まっているわけではなく、道路状況や事故状況に応じて判断されます。そのため、例え時速50km程度で走行していたとしても、その道が非常に狭かったり、通行人が多数いたなどと言った事情によっては、制御困難な高速度であるという判断がなされる可能性があります。
- 未熟運転(2条3号)
進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって、人を死傷させる罪です。「進行を制御する技能を有しない」とは、基本的な自動車操作の技能を有しないことをいいます。技能の有無が問題とされるので、免許の有無を基準として判断せず、実際に技能がどの程度あったのかという観点から判断されます。
- 妨害運転致死傷(2条4号)
人または車の通行を妨害する目的で、通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって、人を死傷させる罪です。幅寄せ行為やあおり行為がこれに該当します。
本罪の成立には、妨害の目的が必要ですが、妨害の目的とは、相手に急ブレーキを踏ませようとするといった自由かつ安全な通行を妨げる目的を言います。単に交通事情によりやむを得ず割り込んでしまった場合には、このような目的がないと判断されます。
- 信号無視運転致死傷(2条5号)
赤色信号またはこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって、人を死傷させる罪です。「殊更に無視」とは、赤信号であることを認識している場合のみでなく、およそ赤色信号標識に従う意思のない場合をいいます。例えば、赤色信号であることを見過ごした場合は「殊更に無視」にはあたらないこととなります。
- 通行禁止道路運転(2条6号)
平成26年に新しく追加された類型です。通行禁止道路(歩行者天国内や、登校時間中の一部学校の周辺など)を進行し、重大な交通の危険を生じさせる場合です。
(2)準危険運転致死傷罪(3条1項)
新法により追加されました。
アルコールや薬物、あるいは一定の病気による影響により、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物、あるいはその病気の影響により、正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合に成立します。
人を負傷させた場合には、12年以下の懲役が、人を死亡させた場合には、15年以下の懲役が科されます(自動車運転死傷行為処罰法3条)。
危険運転致死傷と比較して、「正常な運転に支障が生じるおそれ」で足りるとなっています。それに伴い、本人の認識としても、このおそれがあればよいということになります。
(3)アルコール等影響発覚免脱罪
アルコール又は薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こし、人を死傷させた場合に、運転当時のアルコール又は薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる目的で、さらにアルコールを摂取、あるいは、その場から離れアルコール又は薬物の濃度を減少させること等をした場合に成立します。
飲酒運転で事故を起こした後、現場から逃走し、数時間おいてから出頭すると、体内からアルコールが抜け、飲酒運転の立証が困難になります。このような逃げ得を防ぐため、この罪が作られました。
なお、この犯罪類型を新設したことにより、その場から逃走した場合には、アルコール等影響発覚免脱罪(最高で懲役12年)とひき逃げ(最高で懲役10年)が成立し、併合罪(※)により最高刑は懲役18年になります。
※併合罪
確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪といい、併合罪のうちの2個以上の罪について有期の懲役又は禁固に処するときは、その最も重い罪について定めた系の長期にその2分の1を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた系の長期の合計を超えることはできない。
(4)過失運転致死傷(5条)
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(自動車運転死傷行為処罰法5条)。
前方不注視やスピード違反などの過失により、自動車事故で人を負傷させたり、死亡させたりする場合に成立します。
(5)無免許による加重(6条)
無免許の場合は、各罪の法定刑がそれぞれ引き上げられます(ただし、未熟運転の罪は除く)。
- 危険運転致死
無免許でも法定刑は変わりません。 - 危険運転致傷
免許有 15年以下の懲役→無免許 6月以上の懲役 - 準危険運転致死
免許有 15年以下の懲役→無免許 6月以上の懲役 - 準危険運転致傷
免許有 12年以下の懲役→無免許 15年以下の懲役 - 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱
免許有 12年以下の懲役→無免許 15年以下の懲役 - 過失運転致死傷
免許有 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金
→無免許 10年以下の懲役
~人身事故・死亡事故における弁護活動~
①人身事故・死亡事故に至る経緯・事件の全体像の把握
人身事故・死亡事故で警察に検挙・逮捕され刑事事件となった場合、初犯の過失運転致死傷罪で、かつ被害が軽微であったり、過失の態様が軽微であったりする場合は、罰金で済むことも考えられます。
しかし、危険運転致死傷罪や発覚免脱罪は、刑事事件の中でも重い法定刑が規定されています。そのため、危険運転致死傷罪や発覚免脱罪の場合、起訴されると正式裁判になってしまいます。裁判所での審理の結果、懲役の実刑判決が言い渡されることになれば、刑務所に入ることとなります。
弁護士は、人身事故・死亡事故に至った経緯や動機、当時の状況、その他の事情を精査し全体像を把握した上、適切な弁護方針をご案内いたします。逮捕直後から、人身事故・死亡事故に強い弁護士が弁護を引き受けることで、一貫した弁護活動を行うことができます。
②裁判員裁判への対応
危険運転致死罪の場合、故意の犯罪により人を死亡させたことになるので、裁判員裁判対象事件となります。
裁判員裁判の場合、裁判を開く前に公判前整理手続が開かれ、弁護側は検察官から捜査資料の開示を受けることができます。この時、適切な捜査資料の開示を受けることができれば、その後の弁護側の主張に利することが出来ます。
③不起訴処分や刑の減軽・執行猶予の獲得
人身事故・死亡事故は、被害者がいる犯罪であるため示談解決がポイントとなります。
示談は契約ですので、被疑者と被害者が合意することにより作ることになりますが、被疑者が捜査機関に被害者の連絡先を聴いても教えてもらえないのが通常です。
また、仮に連絡先を知っていたとしても、相手方の被害感情が強い場合、直接被疑者が被害者と交渉を行うのは非常に困難であるといえます。
一方、弁護士を通じれば、検察官より被害者の連絡先を教えていただける場合が多々あります。ですので、弁護士に依頼することにより被害者とコンタクトをとりやすくなります。
また、弁護士が間に入れば、冷静な交渉により妥当な金額での示談解決が図りやすくなります。
④早期の身柄解放
人身事故・死亡事故で警察に逮捕・勾留された場合、容疑者・被告人が反省しており逃亡したり証拠隠滅したりするおそれがないことを客観的な証拠に基づいて説得的に主張していきます。早期に釈放されることで、会社や学校を長期間休まずに済み、その後の社会復帰がスムーズに行いやすくすることができます。
⑤環境調整
重大事故を起こした場合や交通事故の前科がある場合は、運転免許を返納した上で車を売却する等の検討も視野に入ってきます。また、職場の近くに転居するなど車を使わなくても生活できるよう環境を調整していく必要があります。
環境調整のための様々なアドバイスを致します。
人身事故・交通事故でお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部へお問い合わせください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部では、刑事事件を専門に取り扱う弁護士が、直接無料相談を行います。被疑者が逮捕された事件の場合、最短当日に、弁護士が直接本人のところへ接見に行く初回接見サービスもご提供しています。