傷害事件での正当防衛
Aさんは宮城県気仙沼市内で車を運転中、後方から来たVさんにあおり運転をされました。
「何だアイツ…」
頭にきたAさんは車を止め、後ろに停車したVさんに文句を言いに行きました。
すると車を降りてきたVさんと口論になり、カッとなったVさんから殴られました。
この時点でAさんが負った傷は打撲程度でしたが、Vさんはなおも追撃しようとしています。
「このままではやられてしまう。」
そう考えたAさんはVさんが動けなくなるまで反撃し、Vさんに骨折の重傷を負わせました。
Aさんは駆け付けた気仙沼警察署の警察官により傷害罪で逮捕されました。
(フィクションです)
~傷害罪~
AさんがVさんを骨折させた行為は、それを単独で見ると、「人の身体を傷害した」 (刑法204条)ものとして、傷害罪が成立しそうです。
傷害罪が成立すると「十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」(同条)に処せられてしまう可能性があります。
しかしAさんの行為はVさんの殴り掛かってきた行為に触発されたものです。そこで正当防衛は成立しないのでしょうか。
~正当防衛~
正当防衛が成立するためには、
①急迫不正の侵害に対して
②自己又は他人の権利を防衛するため
③やむを得ずにした行為
に当たる必要があります(刑法36条1項)。
①急迫不正の侵害については、Vさんが殴り掛かってきているので認められると思われます。
ただしAさんが、自分の身を守る目的ではなく、この機会に乗じてVさんを痛めつける目的のみで反撃したといった場合には、急迫不正の侵害が認められません。
②自己又は他人の権利を防衛するためについては、Aさんが「このままではやられてしまう。」と考えて反撃していることから、自己の権利を守るために反撃したものと認められる可能性が高いです。
③やむを得ずにした行為については、(1)防衛行為に出る必要性と(2)防衛行為の相当性が認められるかがポイントになります。
(1)防衛行為に出る必要性については、例えば容易に助けを呼べる状況にあったり、逃げ出すことが出来る状況にあれば認められる可能性が低くなります。Aさんもケースでもそのような事情があれば防衛行為の必要性が認められる可能性が低くなります。
「けんかで逃げ出すなんてプライドが許さない」と思っても、むやみに反撃に及ばない方が良いでしょう。
(2)防衛行為の相当性については、反撃の方法や量が問題となります。
反撃の方法については、例えば相手が素手で攻撃してきたのに対しナイフなどの武器を用いて反撃した場合に相当性が否定されやすくなります。
自分が負った傷害よりも重い傷害を相手に与えたとしても、ただちに相当性が否定されるわけではありません。
Aさんの場合も相手により重い傷害を与えていますが、反撃方法は素手なので、ナイフで反撃した場合などに比べると有利だと考えられます。
ただし、AさんがVさんよりも体力面で大きく勝る場合などには、素手での反撃でも相当性が否定される可能性はあります。
反撃の量については、Aさんの反撃によってVさんが攻撃不可能になっているにもかかわらず、さらに反撃を続けていた場合には、反撃の量が多すぎるとして相当性が認められない可能性があります。
以上のような検討をした結果、正当防衛の成立が認められればAさんは無罪となります。
一方、正当防衛が認められなかった場合は傷害罪が成立します。
しかし緊迫した場面ではついついやりすぎてしまうということも理解できるため、過剰防衛(刑法36条2項)として、懲役や罰金が軽くなったり、免除される可能性があります。
また、今回のケースはVのあおり運転が根本的な原因なので、この点もAに課せられる刑罰の重さを判断するうえで有利に働くかもしれません。
~弁護士に相談を~
このように傷害罪の正当防衛を主張して無罪を勝ち取る、または過剰防衛として刑罰を軽くするためには様々な点を考慮する必要があります。
起訴を免れたり、起訴されたとしても有利な判決が得られる可能性が上げるためにも、刑事事件に強い弁護士に相談することをおすすめ致します。
刑事事件を専門に扱う弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は初回相談無料ですので、ぜひ一度ご相談ください。